プライマリーとセカンダリー −両津勘吉−
 2000/05/31(水)発行分

 「明日水曜日はマーケットコメント・オプションが休業日、なにかコラムでも書きたまえ」
 個別銘柄を既に書いているのに、ネタもないし…。ぢんぢ部長に対しブー・ ブー文句放れてる両津でした――冗談です。
 昨晩、炎氏・ぢんぢ・私の3人はミッドナイトディナーでして、炎氏の小説復活・Q&A、そして大原部長のコラムなど色々話をしていたところ、本日のコラムを書くことになってしまったのです。
 では書きます。

 私と大原部長は、かつて同じ証券会社に勤務しており、お互い引受(ひきうけ)という部署に在籍しておりました。大原部長は大変勉強家であり、パソコンを持って事業法人・金融法人を回り、仕組み債を何千億円と売り歩いておりました。PCを持ち歩いていたのは、客の期待収益率が出せるかどうかのデータを入力してあるからです。

 まあ実際は仕組み債といっても、現在の、各証券会社が猿まねのようにこぞってEBを売っているのとは違います。客のニーズに合わせ一つ一つテーラーメードですので、大変なのです。しかもプライシング以前に、海外のタックスヘブンを利用するわけですから、そのための税法など何から何まで2―3人の小人数でこなさなくてはなりませんでした。

 その一方、私は純粋に引受、つまり資金調達を担当し、時間が沢山ありましたので、専らゆっくり読書ができました。

 その時の上司が強烈な個性の持ち主で、「他社があるものを始めたのでウチも検討しよう」、でもどうしてもわからない。「他社はどうしてあんなことができるのだろう?」…即座に行動に出るのです。
 いつも私に、「両津、OO証券にアポ入れろ」。行ったって堂々としたもんです。しかもきちんとゲットするものはゲットしてしまう。すごい上司でした。

 その上司がある時、顧客の上場企業に提案した?手書きの株価(マニュピレーション?)資料を見せてくれました。その手の話は、会社に入社して以来、よく聞いておりましたが、現実に見たのは初めてであり、興奮したのを覚えています。しかしながら、まさか自分がそのあと直ぐに、その手の資料を作ることになろうとは思いませんでした。

 当時バブル崩壊後、ワラントの紙屑第一号はどこの企業になるか話題になっていました。その可能性のある会社が、「メンツもあるし何とか回避したい」との考えをもっていたのです。
 それからが大変。基本は如何に需給バランスをタイトにするか、そしてそれにファンダメンタルズを組み合わせるか。時間がかなりかかりました。全24枚組の力作で、実をいうとそのあと資料の行方はわかりません。データ類は全て破棄、跡形もなく消去しました。

 その時の強烈な個性をもつ上司に、いろいろ教えてもらいました。今でこそアナリストという職種は花形ですが、そのアナリスト達が知らない株価の世界が存在する。アナリストといえば日系証券なら営業から生えあがっていく、しかし、中には全く営業現場を知らない、しかも「株」というものを全く知らないで、ただ企業およびそれを取り巻く業界のことばかりリサーチしている人たちがかなりいるのではなかろうか。

 よく「トップダウンで判断」という言葉を聞きます。木を見る、いや森全体も見なくてはいけない。ここに大きな落とし穴が存在すると私は思います。
 それは、アナリスト・ファンドマネージャー・株式の営業マン、つまり証券界全体に言えることですが、証券界の人々は自分の経験したことだけで株価を語ろうとします(自信家ばかりということもありますが)。

 証券の世界では、大きく分けて2つに分類されます。
 一つはプライマリーマーケットといわれ、いわゆる発行市場。もう一つが読者の皆さんが普段接触可能な、営業マン・アナリストなどがいる世界である、セカンダリーマーケットといわれます。本当に森全体を見るなら、プライマリーからの見方も必要ではないでしょうか?

 引受はかなりドロドロとした世界であり、表面上セカンダリーマーケットではテクニカル・ファンダメンタルで語られている株価にも、実は裏で別の要因で株価が動いているケースもあるのです。

 強烈な個性の上司曰く:
 企業は業績が悪い時、それを隠そうと(表面上よく見せる)化粧に走る。
 企業は業績が目茶苦茶良い時、それを圧縮しようとする。

 これをファイナンスに組み合わせるのです。
 CBの満期があと1―2年になり、時価が転換価格に近い。しかも償還資金準備が厳しいというとき、IRを急に活発に行ったり、マーケットに大きなサプライズを与えるためすごい数字を出して来たり…。

 読者の皆様、冷静な目を常に持ちましょう。たとえどんな有名なアナリストが何を言おうと、自分に信念をもって。


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