【米国でのベンチャー事業について】
●ベンチャーキャピタルの収益性
米国におけるベンチャーキャピタル(VC)の主要拠点は、ニューヨーク、ボストン、サンノゼである。限られた場所に拠点が分散している理由は、VCは経営者と親密にコンタクトを取り、頻繁に事業内容を精査し、育成してゆく必要があり、その結果としてVCが動ける範囲が限られるという制限からこうなっているようである。
また、一人のベンチャーキャピタリストが扱える案件(企業)は、せいぜい7〜8件程度であり、それを超えると管理が行き届かずうまくいかないというのもこの要因に起因するようである。
VCとしての収益モデルは案件10件中、1件か2件がIPOに成功し、制限期間(90日)以降に売却し、売却益を出すというものである。実際にベンチャー企業がIPOすれば、ほぼ間違いなく10倍程度にはなる現状を考えれば、まずもって無理の無い水準であるといえよう。
●有望なベンチャー企業の見分け方
VCにとって最も重要であるベンチャー企業を見極めるポイントについて、各氏に聞いてみたが、「ビジネスモデル」という答えを想定していた私にとって、共通して返ってくる言葉は意外なものであった。それは「キャスティング」と言う答えであった。
つまり、「誰がCEOなのか?誰がCFOなのか?誰がVCとして付くのか?」こういったことが見極めのポイントであると彼らは語った。言い換えれば、「CEOが○○で、CFOが□□、そこにVCのクライナパーキンス(※)のジョン・ドウアーが付いているので、この事業は成功しないわけが無い」と言うことになるのである。
ベンチャー事業とは、言うならば、映画において、主演、助演、監督、脚本が決まれば成功が見えてくるといった、キャスティングの妙なのである(「まあ、はずれも多く存在するが」と誰もが必ず一言添えていたが…)。
その結果、KPがVCとして入ったベンチャー企業では、VCによってCFOやCEOが挿げ替えられると言ったことも起こっているらしく、米国のベンチャービジネスの起業(スタートアップ)の世界では、個々人の役割分担が明確化されている。
このように役割分担が起こっていることから、IPO前のCFOを専門に手がける人や、非IPO企業に限って参加する人など、様々な人がいるようであるが、IPOによる公開益を得るためにはファウンダー(創業者)にならねばならないと言う点は、どの国でも同じようである。
(※)クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KP)=米国で最も有力とみなされているベンチャーキャピタル
●日本のベンチャーキャピタルの地位
取材しながらこの世界は「キャスティング」が鍵を握ることから分かるように、人脈がかなりのウェイトを占めていることを感じた。加えて「ギブアンドテイク」の世界であり、ただただ金を出して、あとは出た所勝負と言った乱暴な世界でないことを認識した。
VC事業の位置付けについては、PVPは住友商事の情報部門の子会社であることを生かして、ベンチャー企業の行う製造販売などの事業に関して、住友商事の関連会社を紹介すると言った形で付加価値をつけ、ベンチャー企業をサポートしている(逆から見ると、住友商事も商流の拡大のためにVC事業を行っている)。その他のVCは一般的なVCであった。
VCの話で共通していた認識は、日本のVCの中で優秀なのはJAFCOの元子会社(名前は欠落)であり、最もひどいVCは単に金をばら撒いている(ベンチャー企業に対してデューデリをしないどころか、出資契約する前に入金してきたりする)光キャピタルであると言うことであった。
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