京セラ(6971)はノキアを越えるか? |
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大原です。長い夏休みを取らせて頂きました。ご無沙汰しておりました。今回から、携帯関連銘柄の整理整頓をしたいと思っております。今回はその第一弾です。 先日、携帯用のRFモジュールを製造している工場を訪問しました。携帯のRF部は、電波を信号に変える受信部と音声を電波に変える送信部からなります。今回の訪問は、その送信部のキーパーツであるパワーアンプ(PA)ユニットの製造工程を見てきました。 PAユニットは3つのトランジスタ(Tr)と20数個のコンデンサーと数個の抵抗をセラミック(3〜6層)基板に実装します。今は、GSMとDCSのデュアル機が主流です。デュアルですと、GSM方式、DCS方式それぞれにPAが必要になるため、Trも受動部品数も倍必要になります。1年前は、デュアルは主流でなかったことを考えると、現在の受動部品の活況も理解できます。 さて、携帯のベースバンドで音声を信号に変えると、その出力は1mW程度です。これでは、10mしか、電波は飛びません。そこで、2W程度まで出力を上げる機能として、PAが必要になります。GSMは電波の位相のみが重要(振幅を問わない)で、Si−MOSというやや特殊なTrが主流です。欧州以外ではガリウムヒ素(GaAs)ベースのバイポーラTrがよく使われます。ただし、ガリウムヒ素は、WB−CDMA(IMT2000)から、欧州でも使われます。その際は、GSM、DCS、WBCDMAのトリプル方式のPAになります。ですから、GaAsのバイポーラPAは期待大です。なぜなら、巨大なGSM市場が初めてGaAsTrを受け入れるのですから。また、受動部品もPA周りだけで数十個必要になるのですから、受動部品メーカーにとっても結構な話です。 なぜ、こう長々とPAについて書くのかというと、今回のPAユニット製造に携帯電話事業の本質を見たからです。ご存知のように、一枚のウエハーから数千個のTrが取れます。しかし、Trの特性というものは同じウエハーから出来ても、取れる場所によって違ってしまいます。そのため、設計図通りにコンデンサーなどを配置しても、PAユニットは動かない。PAユニット製作には、Trの特性を見越して、最適容量のコンデンサーを選択するという調整の手間がかかります。このノウハウは、受動部品、セラミック基板、Trのそれぞれのメーカーにあり、残念ながら、携帯を作るセットメーカーにはありません。そのため、この会社のPAユニットの利益率は30%を超えています。この利益を取り込めないというのは、セットメーカーの泣き所です。セットメーカー自らが実装して、動かなかった場合、わずか3%のPAのために、携帯1台まるまるだめになってしまいます。セットメーカーにはダメになったRFモジュールを再び生かすノウハウがない。そこでモジュールごと買うしかない。モジュールメーカーが30%以上の利益を取ってしまっていても。 さて、これが何を意味するのでしょうか。受動部品とセラミック基板を併せ持つ部品メーカーが携帯の組み立てをすれば、大きな利益率が確保できる。携帯の組み立てのみでは、利益率が確保できない。ですから、セットメーカーのノキアよりはセットメーカーでありながら部品も手がける京セラのほうが、高い利益率を達成する可能性が高い。京セラには、将来の厳しい競争に打ち勝つ根拠があるのです。株価はノキア以上に高く評価されても可笑しくないということです。 工場見学のもうひとつの目的は、RF部でシリコンがどれだけの機能を集積できるのかを確認することでした。ちまたでは、SiGeのBiCMOSなどが騒がれています。SiGeとは、シリコンゲルマニウムのチップのことで、これは主にバイポーラーTrです。GaAsより、高機能ということと、Siウエハー上でGeをエピ成長されるため、Siプロセスが生かせるため、低コストであることが大きな魅力となっています。 そのあたりのお話を設計の方にお聞きしたところ、送信側については、まだまだSiGeが出る幕はないとのこと。第一に、特性上の問題(不安定)、設計上の問題、ユニットとして、前述の調整が難しいという歩留まりの問題など、問題山積とのこと。私が思うに、周辺受動部品をICに取り込むことも、わざわざ高価な半導体プロセスを使ってやる意味があるのか疑問である。おまけに、シリコンの受動素子は温度特性などに問題が多い。IC化されたVCOが特性が悪いことは有名(VCOは受信部の機能のひとつで、受信した周波数とVCOが発振している周波数とを比べて、両者の周波数が同じときに、その信号をベースバンドプロセッサーに送り込むという機能です)。 また、最近では、セラミック多層基板が周辺の受動部品を内部に作りこむという話もよく出ます。しかし、デュプレクサー(送信電波だけを通したり受信電波だけを通したりする機能)ではセラミックは10〜20層にもなるのが、PAでは高い出力が必要な分、パッケージ基板も大きくなり、基板は数層に過ぎません。20層の基板に数層で事足りるPA基板を作るというのは、「新宿の土地に大根を植える」ような非効率が生じることになってしまうのです。それぞれの機能のセラミックパッケージ特性が大きく異なることから、セラミックが受動部品を集積していくという話は、大変困難。 要するに、今回のSiGeのRFワンチップの話も、セラミック万能の話も、それをやろうと思えば出来るようになるというだけでのことでかなり非現実的です。高機能RFの本来の趣旨は、今後は高速のバイポーラTrが必要になってくるということです。それはPAではGaAsであり、受信部ではSiGeであるということです。 なぜ、工場見学をするのか、なぜ、技術者に直接会って、話を聞きにいくのか、それは、こうした工場見学や技術者との議論によって、多くの株式投資に関するヒントが得られるからです。 以下は、今回の訪問で確信したことです。 (1)GaAs P.S. 直近の村田のコラム、もっと強気に書くべきだったでしょうか。今週、さらに、大手多層セラミック基板メーカーの事業部長と携帯RF部門の今後の戦略について面談予定です。熱い携帯シリーズを続けます。また、抵抗器大手の工場見学も明日予定しております。お楽しみに。 |
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