豊田合成続編「松下はやはりマネシタなのか?」
 
−大原部長−
 2000/09/13(水)発行分

 前回のコラム、青色LEDのp型GaN膜のアニール処理の件が頭から離れず、土日を使って、他社の状況をチェックしておりました。自分でも、かなりしつこい性格なのかなあ、と半ば自分で自分にあきれております。

 豊田合成は、製造ノウハウでは、かなりの部分を松下に頼っています。松下グループの協力があってこそ、豊田合成は、生産能力を拡大できるのでしょう。松下の九州の工場で青色LEDの生産工程の一部を請け負っていることは周知の事実です。

 ですから、このアニールの処理については、豊田合成も困り果てて、松下に相談していると読んでおります。そこで、松下の特許から、p型GaN膜の低抵抗化処理に関する特許を洗っていると、出願特許(未請求)の中に、まがい物の出願を見つけてしまいました。

 その出願は、日亜のアニール処理を言葉のあやで回避しようというものです。

1)日亜の特許:高温(1000度以上)でドープ後、400度以上でアニールする
2)松下の出願:高温でドープ後、400度まで冷却する

 この1)と2)のどこが違うのか、まったく同じことを言葉を変えているだけです。アニールと冷却。アニールする代わりに冷却しているだという回避策です。こんな出願する松下の神経はどうなっているのでしょうか。技術者としての良心はないのでしょうか。もちろん、こんなまやかしは通じません。松下はいつまでたってもマネシタなのでしょうか。

 中村さんの特許の根幹は、アニール処理以外にも、アニール時の大気雰囲気も特許で押さえています。それは、純粋な窒素雰囲気でアニール処理をするという点です(USパテント番号5306662(1992))。

 松下の98年7月の出願は、以下の通りです。
特許出願平10−190029:
「ところで、従来、p型窒化ガリウム系化合物半導体を製造する方法としては、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長した後、基板を冷却して、同じ反応管内あるいは異なる容器内で実質的に水素を含まない(水素ガスやアンモニア等を含まない)雰囲気中で400℃以上の温度でアニーリングを行い低抵抗p型伝導化する方法(以下「第1の方法」という。)が知られている。この方法は、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体からp型不純物と結合した水素を追い出すことによりp型不純物を活性化させて低抵抗p型伝導化するもので、これによれば、深さ方向に均一に低抵抗化されたp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られるとされている。このような方法は特開平5−183189号公報にて開示されている(大原による注:これは中村さんの有名な特許)。
【0006】一方、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後、アンモニア等の窒素原料ガスや水素ガスの供給を止め、窒素ガス等の不活性ガスを供給しながら不活性ガス中でアニーリングしながら冷却する方法(以下「第2の方法」という。)が提案されている。この方法は、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体からp型不純物と結合した水素を追い出すことによりp型不純物を活性化させてp型伝導化するという点で上記第1の方法と共通しているが、この方法によれば、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後、基板を冷却させると同時にp型伝導化させることができるので、製造工程の簡素化が可能となるとされている。このような方法は、例えば特開平8−125222号公報にて開示されている(大原による注:これは豊田合成の後追い特許です)。
【0007】【発明が解決しようとする課題】上記の方法により、低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られるようになり、これを用いて発光出力の高い発光素子が得られるようになった。しかしながら、発光素子の発光出力をさらに高くし、発光素子の消費電力を低減させる等の素子特性の改善を進めるにつれ、上記の従来の方法を用いる場合では以下のような問題が生じることがわかった。
【0008】 すなわち、第1の方法においては、高温でアニーリングを行う間に窒化ガリウム系化合物半導体の表面から窒素元素が離脱しやすいため、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体の表面の結晶性が劣化し、この上に形成する電極のオーミック特性が不十分となり発光素子のデバイス性能に悪影響を与えるという問題がある。このような窒素元素の離脱を防ぐために、アニーリングの前にキャップ層を形成させた後、アニーリングを行う方法もあるが、このような場合、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後、冷却後にキャップ層を形成させ、その後アニーリングを行う必要があるため、製造工程が煩雑になるという問題もある。
【0009】 一方、第2の方法においては、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後、冷却中にアニーリングを行うので、製造工程は簡素化されるものの、アニーリングの間に窒化ガリウム系化合物半導体の表面から窒素元素が離脱しやすい傾向にあるため、第1の方法の場合と同様に、発光素子のデバイス性能に悪影響を与えるという問題がある。
【0010】 本発明は、上記の問題を解決するものであり、表面の結晶性を良好に保ったまま簡便にp型窒化ガリウム系化合物半導体を得るための方法を提供することを目的としている。
【0011】【課題を解決するための手段】本発明者等は、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後の冷却中に行うアニーリングについて鋭意検討を重ねた。その結果、冷却工程における雰囲気ガスを、従来の方法のように実質的に水素を含まない雰囲気ガスとするのに代えて、少なくとも窒素元素を含む原料ガスと窒素ガスとを供給した雰囲気ガスとすることにより、表面の結晶性を良好に保ったまま簡便にp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られることを見出し、本発明をなすに至った(大原注:これは、むしろ後戻りである。なぜ低抵抗化に意味のない原料ガスを流す必要があるのか)。
【0012】 すなわち、本発明は、気相成長法により、少なくともガリウム元素を含む原料ガスと、窒素元素を含む原料ガスと、マグネシウム元素を含む原料ガスを反応管へ輸送し、前記反応管内に設置され加熱された基板上にマグネシウムをドープした窒化ガリウム系化合物半導体薄膜を成長させた後、前記反応管内で少なくとも前記窒素元素を含む原料ガスと窒素ガスとを供給した雰囲気ガス中で前記基板を冷却することを特徴とするものである。
【0013】 このような構成によれば、マグネシウムをドープした窒化ガリウム系化合物半導体を成長させた後、冷却中に窒化ガリウム系化合物半導体の表面の結晶性が劣化するのを抑制できるとともに、マグネシウムをドープした窒化ガリウム系化合物半導体の低抵抗p型伝導化を簡素化することが可能となる。」

 引用が長くなりました。ここで、提案されているすべての論点は、すでに日亜が数年前に特許で押さえているものです。この特許の出願は、98年7月。日亜は押さえている。もう手遅れです。

 因みに引用部に出てくる豊田合成の特許ですが、それも肝心な部分を引用します。

「p層6は有機金属ガスの供給を停止して、N2ガスだけを供給して、室温まで自然冷却した。この処理により層6をホール濃度 6×1017/cm3、抵抗率 2Ωcmにp型化できた。p伝導型の良質な結晶を得ることができたため、発光強度が向上した。」

 これは、出願94年ですから、日亜より2年遅れです。無効になるべきものです。もちろん、この出願は未請求です。請求しても成立しないでしょう。
 豊田合成は、このアニール部分について、なんらかの情報開示をすべきではないでしょうか。日本では、幸いなことに、製造現場に裁判所が立ち入ることがありません。ですから、どんなにプロセスを真似ようとも、真似したものが得をする世界なのです。しかし、仮に、日亜が米国で同様の訴訟を起せば、裁判所は製造ラインに立ち入ります。合成によるアナリスト説明会では、日亜はMOCVD法であり、一方、合成は、MOVPE法であるから違うということを強調しておりました。両者とも有機金属化合物気相成長法であり、同一のプロセスと判断されても仕方のないことを指摘しておきます。

 あと一点。豊田合成は、GaNにInを混ぜることで、回避をしようとしているようですが、Inを混ぜて特性が大きく改善することがなければ、その特許は認められません。仮に、そのような特許が認められるのなら、多くの企業の参入を呼び込むことになります。
 例えば、ソニーは、Bを含むBp Alq Gar Ins Nをp層に使用することを提唱しています。このように、ある物質を0.000001%混ぜると違う物質になるとの理屈は、屁理屈と言います。特性を向上させるという点で、歩留まりが向上した、などと本来の特性と無関係に主張するものも多々あります。しかし、冷却をアニールと主張するとは。本当にマネシタ電器ですね。

 なお、この話題については、合成の保有者にご迷惑をおかけしたのかもしれません。特許問題という非常に微妙なテーマであるのに関わらず、私個人の偏見があったかもしれません。豊田合成関係者の真摯な対応とご返答をお待ちしております。


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