自動車の電子化
 
−両津勘吉−
 2000/09/14(木)発行分

  9月から電機に加え自動車関連もリサーチしようと考えたのは、私が自動車好きな事、及び自動車の更なる電装化の流れからです。
 かつて昭和40年代の頃にはエンジン制御に電子制御は行なっていませんでした。燃料も噴射ではなく負圧を用いた仕組み、つまりキャブレターです。しかし昭和53年に今までの排ガス規制が急に厳しくなり、各社排ガス対策に頭を悩ませました。その頃から三元還元触媒が用いられ、高級車には電子制御(インジェクション)エンジンが使われ出しました。

 キャブレターと電子制御の違いは、キャブレターの構造は吸入空気の通る管の間を一部細くしてやります。太くそして細くまた太くという形状にするのです。すると、そこを通る空気は細くなる部分で流速が早まり、周りの壁に負圧が発生します。そこに横方向から燃料ノズルを出してやると、負圧で燃料が吸い出される構造です。この混合気をシリンダー内に吸い込ませるのです。

 一方、電子制御はキャブレターと違い、エンジンの回転する時の管内(パイプ)の空気流入量をエアフロメーターという装置で測定し、流速、アクセル開度、エンジン回転数などのデータを基に燃料噴射量を求め、インテークマ二ホールド(吸気パイプと考えて下さい)に突き出す(差し込んである)インジェクター(注射器とお考え下さい)から燃料噴射をおこないます(このエアフロメータの基本特許はボッシュだったと思います。この特許から逃れるために各社研究を重ねましたが無理で、ライセンス供与を受けました。しかし1社だけ逃げた会社があります。それは三菱です。管内に突起物を設け、空気がこの突起物にあたった時に発生する渦を超音波で計測し、空気流入を求めていました)。

 この頃排ガスをきれいにするため、各自動車ともパワーがかなり落ち込み、当時若者に人気のあった、三菱GTO、マツダのRX−7などは昭和53年以降、実感パワーはカタログデータ以上に落ち込んでいると意見が多く、規制前の中古車を探すオーナーも結構いたようです。

 しかし落ち込んだパワーを回復すべく、日産は国内メーカーで初めてターボ搭載車をデビューさせました。車種はセドリックの2000ccで、日産の主力エンジンであるL型(L20)です。その後スカイラインのL20、またトヨタも追従し各社ターボを搭載しだし、パワー競争が過激になってしまい現在に至ります。
 エンジンのピークパワーを上げるのは、いとも簡単です。現行スカイラインGTRに搭載されているRB26というエンジンは初代の時点で、ベンチテストで軽く300数十馬力を出してしまい、運輸省の裏の圧力と言われていた280馬力を越えていたため、パワーをどうやって落とすのか巷の話題になっておりました。

 しかし最近ではパワー競争よりかなりクリーンエンジンに力を入れているようです。かつてのモーターショーで本田がLEV、ZEVエンジンを開発し、特にZEVにおいては大気よりきれいな排ガスとPRしておりましたが、今回日産がブルーバードシルフィーに搭載したQG18DE及びQR20DDは、世界最先端を行っておりましょう(特にQG18DE)。

 世界で一番厳しいと言われているカリフォルニア州のHC現行基準がTLEVです。更にLEV,ULEV,そして大気レベルと同等のSULEVがあり、今回のエンジンはなんとSULEVの半分以下のHCレベルなのである。

 ではこのエンジンどこが違うのか?
 エンジンから出た排ガスはエキゾーストマニホールドで集められた後、直ぐに最初の触媒に入って行きます。ここが一つのミソです。各社同じようなことをやっておりますが、エンジンの吐き出される排ガスが一番汚いのはいつか?それは始動直後です。
 なぜか。触媒はある程度の温度に達しないと機能を発しないからです。最近の触媒がエンジンから出た途端に付けられているのは、この理由からです。
 では、最近ステンレス製のしかも薄いタイプのエキゾーストマニホールド(排気管)が用いられるのはなぜか?これはエキマニが早く暖まって、触媒に熱が早く到達するための手法なのです。

 こうした努力に加え、今回のブルーバードにはあちらこちら手を加えられております。
 触媒の数は全部で2つ。一番目はエキマニに取り付けられた早期活性空燃比センサーの後に超低ヒートマス担体触媒が取り付けられ、酸素センサーのあとHCトラップ触媒を取り付けております。このエンジン触媒は表向き2つですが、実際は最初の超低ヒートマス担体触媒と同じ筐体(入れ物)にHCトラップ触媒を入れているため、HCは2段階、トータル3段階です。この超低ヒートマス担体触媒は日本ガイシと日産の共同開発です。

 しかしこのエンジン、私たち一般庶民にとっては凄いと感じますが、現在日産社内に存在する未発表のエンジンは、このQG18DEと比べ物にならないものがあるようだ。日産はかなり自信をもっております。

 次はトヨタ。ソシエテジェネラルの技術指向アナリストがデンソーを買いにしたと聞きましたが、コモンレールが理由の一つになっているかと思います(まだこのレポートを私は読んでないのですが)。

 コモンレールとは何なのか?これは直訳の通り、共通のレールで燃料をシリンダーに噴射するための管(パイプ)です。数年前までディーゼルエンジンは、燃料噴射の量を前述のガソリンエンジンと同様に電子制御でなく、分配型と呼ばれる機械的な燃料噴射を行なっておりました。しかし皆様も良くご存知の通り、ディーゼルは排ガスが汚いと叩かれ、PMという粒子状物質が問題になっております。このPMを減らそうと電子制御でコントロール、また直接燃焼室に噴射するタイプも出てはいますが、完全にコントロールできない。そこで出てきたのがコモンレールです。

 燃料を1200−1300気圧という膨大なプレッシャーを与え、その燃料を各シリンダーに電子制御でコントロールしながら噴射するという画期的なものです。このコモンレール、デンソー、ユニシア?(日産系は社名変更と合併しているからわからなくなった)、ボッシュなど…(いすゞの現行ビッグホーン、ウイザードはこの3社からではないという。以前ヒアリングしたらキャタピラーと言っていたが本当?)

 このコモンレール、今回のトヨタの発表したディーゼル用触媒に関係しているのです。触媒とコモンレールが関係するはずがないとお考えの方はかなりの知識の持ち主です。普通はこの両部品、関係していないのです。
 トヨタの発表した触媒はPMとNOxを同時に還元(処理)することを特徴としており、多孔質セラミックを担体にガソリンエンジンのリーンバーン用に開発されたNOx吸蔵合金が使われております。リーン状態(希薄)ではNOxを一旦吸着し、その際発生する酸素と活性酸素でPMを酸化。その後瞬間的にエンジンの燃料増、つまりリッチの状態を作り上げ、一気に触媒内に吸蔵されたNOxを酸化してしまおうとするもの。

 もうみなさん御分かりだと思いますが、エンジンに噴射される燃料はその時の走行状態から電子的に計算されているのですが、トヨタのこのディーゼルエンジンは走行と関係なく、触媒の状況をみながら微妙な燃料コントロールがされているのです。つまりこの触媒はコモンレール無しには現状考えられないのです。

 このタイプのエンジンをトヨタは2003年に発売するとしており、なんでまだ先なのか?
 それはこのエンジン、一つ条件が付いているのです。それは燃料です。現在の軽油の硫黄分は500ppm、このエンジンは50ppmの低硫黄という条件が付いており、この条件を満たすためには、各オイル会社が奮闘しなくてはなりません。石油連盟が打ち出した期限が2003年なのです。

 最初に書こうと思った内容からかなりずれてしまいましたが、今回自動車の専門書をみていたら、トヨタのスープラターボの話が出ており、この2ヶ月で燃費がリッター8キロから半分の4キロに落ち込んだとあり、原因はたった一つの部品。なんと前述の酸素センサー1個のせいであった。空燃比信号が常にリッチ信号を送り続け、そのため燃料が増量しっぱなしになっていたと…。

 本当に自動車は電子化したものです。しかしまだまだ電子化していきます。自動車をリサーチするには電気・電子と化学が理解出来なければ話にならない時代に入ったと私は考えております。ほんの2冊本を読んだだけでも、この10年で車がすごく変化したのが理解できました。取材にかなりの時間がかかりそうですがチャレンジします。


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