荏原のCMP事業
 
−大原部長−
 2000/09/18(月)発行分

 先日、荏原(6361)の電子精密事業部の方に取材にいきました。
 前回、CMPについて、少し紹介しましたが、今回は、そのフォローアップです(4月の記事については、文末に載せておきます。)。

このコラムで読者に伝えたいこと:
(1)半導体プロセスにおいて、金属の堆積方法には何があるのか、また、金属を削る方法は何があるのか?
(2)ウエハープロセスとは、極端に言って、シリコン系絶縁材とアルミ系配線材をつんだり削ったりすること。
(3)ロジックの文化は配線。メモリーの文化はセル。

より高度な読者のための質問:
(1)なぜ、銅配線の前に、絶縁層コンタクトホールにシード層をする必要があるのか?
(2)CMPのメタルプロセスには、2種類のスラリーを使います。なぜ?
(3)有機材料は、なぜ、CVDより塗布なのか?
 こうした「高度な」質問に答えられえる方は、億近コンサルタントとして、採用したいと思います(定員2名)。また、将来のアナリスト希望者、ファンドマネジャー希望者の方は、大原まで、答えを記入のうえ、どしどしご応募下さい。(編集者注:既に締め切り)

 さて、 CMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング)というのは、よくご存知のように、半導体の製造工程(ウエハー工程)の一部です。主に配線技術が物を言うロジックICの製造工程で多用されてきました。
 多層配線は、ウエハー上に配線層と絶縁層を交互に積み重ねます。その際、各層が平坦でないと、表面の平坦度が損なわれます。そうなると露光のピントが合わなくなります。微細加工になればなるほど、露光深度が浅くなるため、わずかなでこぼこのせいで、エッチングのムラが出来てしまうからです。
 そのため、CMPで平坦に削っていくのです。

 CMPは、丸いテーブル上にパッドという布を敷き、その上にウエハーを乗せ、ウエハーとテーブルをそれぞれ回転させながら、表面を化学反応の力を借りながら、ウエハー上の配線や絶縁層を削っていくものです。その際、テーブルの下からスラリーという研磨液をにじませます。

 市場動向ですが、荏原は日本、台湾、米などでAMATと競っています。シェアは30%程度でしょう(台数ベースではもっと高いシェアとなります)。このCMP市場は、AMATと荏原の2強時代を迎えています。いろいろな参入企業がありましたが、落ち着いてきた感じです。

 このCMPがにわかに注目されたのには、理由があります。STI(シャロウ・トレンチ・アイソレーション)というゲート周辺の作り方がDRAMで2年前くらいから主流になっています。STIがDRAMのセルを小さくするための必須条件と数ヶ月前のNECのコラムに書きました。
 DRAMというのは、セル技術で配線技術のロジックとは、文化が違う世界です。そして、その違う文化の中でもっと難しいSTIのSiOとSiNの研磨をCMPがやってしまったのです。ゲートというのは、一番先に作られる、一番難しい個所のひとつです。もう、こわいものはない。なんでもできるぞ!とやる気になったのは、CMPのエンジニアです。荏原自身が驚いたそうですよ。

 さて、絶縁材や配線材を平坦処理する方法としては、1)エッチングバックと2)CMPがあります。
 これからはCMPが有望と思う根拠のひとつは、貴金属膜を制御する方法としては、エッチングよりCMPの方が簡単だからです。これまでは、ICといえば、シリコンとアルミの2つの材料しかなかった。物理寸法をどんどん小さくするだけで事足り、新しい材料を使う意味がなかった。しかし、これからは、貴金属が材料として登場してきます。メタルゲートしかり、キャパシタ電極しかり、です。例えば、銅配線もそのシード層には、ルテニウムや白金が使われます。貴金属はエッチングがし難い。CMPがいい。

 CMP有望論の2つ目の根拠は、メッキ技術です。CMPは、ウエットなプロセスです。金属を堆積する方法として、1)CVD、2)スパッタ、3)メッキ、があります。もっとも安くて速いのがメッキです。メッキは電解メッキ槽にウエハーを入れてメッキするだけですから(もちろん、メッキの前にシード層堆積の前処理が必要でその際はCVD要。ですから、メタルのプロセスは絶縁膜より複雑で、装置メーカーが工夫する余地が大きく、収益性を期待できる)。
 ダマシンプロセスの銅配線ではもちろん銅メッキ処理をします。これから登場する貴金属はメッキが向いているでしょう(ダマシンプロセスとは、簡単に言うならば、絶縁層に穴を掘ってそこに銅を流し込む工程で、銅を施した後は、絶縁層を削る必要がないという長所があります)。

 CMP有望の最後の根拠は、LowKです。絶縁層はこれまで酸化シリコンや多結晶シリコンでした。この絶縁層の材料がLowk材に変わっていきます。そうなると、ダマシンプロセスをとらないアルミ配線上に、Lowkを堆積した後、Lowk材を削る必要あります。CMPで削れるのです(もちろん、銅配線ではLowkを削る必要がない)。
 新しい複数の配線材。メッキの活躍。Lowkの採用(Lowkとは、低い誘電率特性を持つ材料で絶縁特性がよいもの。IBMがダウのSilkを採用し、話題になりました。Lowkは塗布するタイプの有機系とCVDができる無機系にわかれます。読者の方は、よく考えてください。なぜ、有機系の材料は塗布されるのか、なぜスパッタできないのか、なぜCVDできないのか、こういう具合に、いつも疑問を感じる好奇心を養っていただけるとありがたいです。)。塗布ならスピンコートの東京エレクトロンです。メッキ、塗布、CMPなどのウエットプロセスが急速に立ち上がります。
 これをウエットレヴォルーションと言います。

 荏原の強さは、CMPとメッキと洗浄にあります。それらは、配線をつくって削るという連続するプロセスになります。たとえ、どんなシリコンサイクルが来ようと、CMPの売上げは順調に拡大すると見ております。

 メッキについては、先日、天才アナリスト両津氏が、上村工業で取り上げました。今、両津氏はメッキに夢中です。ウエハーレベルのパッケージは、メッキではんだボールをつくります。CMPとメッキ槽とステッパとコーターを行き来するだけで最終製品が出来てしまう日が近い将来やってきます(もちろん、一部のICがそうなるだけで、後工程がなくなるわけではありません)。

 メッキ処理装置についても、CMP規模の市場があります。この分野では荏原は断然トップになるでしょう。将来、半導体製造装置売上げ2000億円も射程距離です。株価2000円も夢ではありません。

 荏原については、引き続き強気で見ております。イチオシに入れてチョ。(大原)


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