投資技術としての特許リーディング第1回
 
−大原部長−
 2000/10/13(金)発行分

 特許を読んでいる人と読んでない人とでは、会社訪問の際の質問の内容が違います。インターネット時代は、早耳情報よりは、情報分析力がものをいいます。

 本当に残念ですが、バイサイド、セルサイドの関係者諸氏は、忙しすぎて特許を読む時間もないようです。今回は、投資技術としての特許リーディングとして週1ペースで書きたいと思います。

 今回は、特許の整理がどのように役立つのか見ていきましょう。大原のPDP材料シリーズは、PDP自体の将来性が薄いため、2回で打ち止めにしました。そのとき、億近コンサルタントのQさんに特許を整理していただきました。たとえば、PDP関連の東レの特許です。

1.出願年で整理(いつ本気になったかがわかる)
 東レのPDPの取り組みは97年に本格化、98年にピーク、99年には開発が完了しました。それは、95年までは10件以内の出願だったのが、96年に20件を超え、97年は60件、98年は70件と飛躍的に増えたのち、99年は20件以下に落ち込んだことから明らかです。
 松下からお声がかかったのは97年ごろではないかなあ、なんて勝手に推定したりしております。

2.特許の名称による整理(どんな特許をとっているかがわかる)
 200件近い出願のうち、18件がPDP製造方法、14件が感光性ペーストです。東レが材料提供だけでなく、PDPの製造方法の改良まで踏み込んだことがわかります。松下との合弁では、製造マージンまで取りに行きます。
 PDPは、ものになるかわからない市場です。それゆえ、製造方法には格段の改良余地が残されています。製造装置メーカーはPDPを無視していたため、各社各様のラインとなってしまいました。PDPが立ち上がるためには、感光性ペースト法は絶対条件です。一方、材料メーカーとしては、画面が小さくなるリスクがない大型ディスプレイは最重点の研究課題です。封止材などはチップシュリンクとともに量の拡大が難しくなります。しかし、PDPが小さくなることは絶対ない。PDPの隔壁、誘電層、電極などはすべてドライフィルムやペースト材で形成していくことになります。材料メーカーにとって、PDPは「よい」市場、製造装置メーカにとってPDPは「悪い」市場、したがって、松下と東レのような組み合わせになります。

3.発明者による整理(誰が中心でどれだけの人的資源を投入したかがわかる)
 東レのPDP関連では、正木氏が113件、井口氏が96件、堀口氏が30件、以下76人が発明者です。正木さん、井口さんの2人が中心になった大型チームです。R/Dにおいて、かなりのリソースをつぎ込んだ形跡が残りました。東レは本気だった。

 地道な特許の整理から、本気度がわかり、チームの構成、なにを狙っているのか意図もわかる。こんな情報は、インターネット時代は、特許庁HPにアクセスすれば、取れます。整理するのは、かなり大変ですけどね。

 でも、WDMや携帯電話など、成長製品の種類は限られています。限られた製品ぐらいちゃんと整理したほうがよい、というのが私の意見。


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