次世代ディスプレイ展望とヒューネット液晶のリスク要因
 
−大原部長−
 2000/10/17(火)発行分

 読者から、次世代ディスプレイの本命はどこか、という質問が来ました。

 小型カラーディスプレイの本命は、低温ポリシリコンベースのTFT及び有機ELでしょう。

 先日、住友化学の有機LED(2年後製品化予定)が日経に載っていました。LEDと発表されていますが、高分子発光体(≒有機EL)であるように、素子自体が発光する仕組みの方が、視認性、応答速度、消費電力の点で有利です。
 しかし、液晶も反射型では、電力消費で、ELを凌ぎます。液晶とポリシリコンTFTの組み合わせは、応答速度を速めるためにも、また、ドライバーを基板上に作り込む省スペース+コストダウンの点からも、主流にならざるを得ません。懸念される現状の低温ポリの低い歩留まりは、小型パネルでは大きく改善できます(これは、EL業界にとっても大きな意味を持ちます)。
 

 現状の携帯カラー液晶の「汚さ」は、バックライトがない(エッジライトにすぎない)、導光板を省いているなど、コストを優先させた結果です。きれいなものが出来ないのではなく、コストに合わない結果そうなっている。
 コストダウンの余地から言えば、ELが優位です。NECは自社で来年にも携帯向けELディスプレイを出してくるでしょう。シャープも表立ってはいえません(液晶業界の代弁者として)が、ELメーカー向けにパネル供給を考えています。なにせ、電極2つと素子だけで発光するのですから、構造が格段に単純です。後は、電流制御のドライバーICのコスト如何です。ELのICは、0.5μという大まかなプロセスで作っています。量産が始まれば、コストは大きく下げられます。寿命や赤色がきれいに出ないという問題はありますが、決定的な欠点ではない。

 ELは三洋、NEC、(東北)パイオニア、シャープが先行していると見ています。三洋も当初はパッシブですので、他社もアクティブで追いつける展開になるでしょう。液晶では、東芝、シャープ、ソニー&自動織機などに注目。

【ヒューネットのリスク要因】
 先日の豊田合成の疑問点を書いて、ネガティブなことは出来れば書くのはやめたいと感じています。なにせ後味が悪いですから。しかし、一方で、疑問に思う点は、堂々と議論すべきとも思います。今回は、ヒューネットのリスクにさらりと触れたいと思います。ヒューネットはご存知の通り、人気のある会社で、それは、読者からの質問が多いことからわかります。したがって、リスクを書くことは、勇気が要ります。 ヒューネットについては、投資家は、会社側の言い分を額面どおりにとっていらっしゃる方が多い。そこは、しっかり、冷静に判断しなければなりません。

 まず、実際、高耐圧/新規波形のドライバーを起こすことに対するコスト不安があります。TIが肩入れしたとしても、開発費はコストに乗っかってくるはず。量産効果などは、0.18μなら月数百万は受注がほしい。また、LEDだけではなく、導光板とか拡散板とかも必要です(既存の携帯には必要ない)。

 以下は、億近コンサルタントの方々と議論をした結果です。コンサルのうち、もっとも否定的だった方の意見です。議論のたたき台は、出願中のTN液晶の駆動方法という特許です。

「技術面ですが…TN液晶駆動の出願特許を読むと、この開示内容では、権利化は出来ない可能性が高い。技術的な根拠が詳しく示されていないからです。”当業者が再現可能な程度の開示”の要件を満たしていません。
 特許を読むと、これは二周波駆動のことを言っているのだろうと感じます。もちろんそんな古典的な方法で善しとしているとも思わないのですが、それ以外の画期的な技術を暗示する記述は全くない。二周波駆動であれば、たしかに通常の時分割駆動よりは速くはなります。しかし、消費電力、視角、コントラスト、等々で、あまり有利な手法ではないです。極性反転させるのは当然で、これをしなければ液晶はすぐ死んでしまいます。印加パルスが大きければ、幾らかでも速くなるのはその通りですが、これは消費電力増大に直結しますから、普通は絶対やりません(注:特許を読むと、ヒューネットはやや高目の電圧を用いるとしている)。回路の負荷も大きくなるばかりです。石の耐圧を上げるのはコストアップです。
 また、携帯アプリでは消費電力の増大は致命的なはず。休止期間を設けるのは、目的と逆行しています。全面開口だといっても、タイムドメインで黒の期間があったら、その分開口率が下がるのと同じことです(注:特許から推定される駆動方式は、独自のパルスの休止期間の設定がある。しかし、電圧を休止すれば、明るさが損なわれるはず、という指摘です)。
 フレーム周波数の問題では、バックライトの点灯タイミングと整合が必要ですから、ほとんどピンポイントになるはずです。コントラストとフリッカーがトレードオフになるのは当然なので、そのポイントで最もバランスの取れたパフォーマンスを発揮するようにセルパラメータと材料物性の設計、それに駆動波形の調整を行う必要が生じます。これはちょっと難儀だと思いますよ。
 もしかしたら、FSだということだけで話題性があって売りになるから、液晶の部分は何でもいいという考えなのかもしれません。それで通用するのか、そこが見極めどころになるということでしょうね。
 考えていくと、CFレスでのコストダウンと全画素使用の開口率向上、残るメリットはこれだけです。それに対して、LC部のドライバーを起こし、バックライトは新規で、この駆動も大変で、信頼性もいまいち不安で、消費電力は大きい。ターゲットは携帯情報機器以外はあまり浮かんでこない」(億近コンサルタント)

うちのコンサルは結構辛口なんです。はたして、実際、どうなんでしょうか?皆様の反論をお待ちしております。

 以下は、問題の特許から抜粋と私の感想です。

「ネマティック液晶の印加電圧波形と光透過率の動的な特性の測定を行ったところ、印加電圧の波形によっては、印加電圧が変化した時に、光透過率が高速に変化する状態が存在することがわかった」。
 しかし、その状態を明記してくれない。善意に解釈して、企業秘密だということであろう。

「本発明の動作を説明する。T1からT6の各期間において、画像データに応じて印加電圧の絶対値がV1か0Vのいずれかになっている時間と、一定の周期で一定の時間、印加電圧の絶対値が必ず0Vになっている2つの状態が存在している。T3およびT5の期間では、印加電圧の実効値がずっと0Vであり光透過率も黒の状態のままである(=かならず0Vにしている区間)。」
 こうした、0Vにする期間があっては、開口率が落ちるのでは、という疑問をわたしたちは持った。

「比較すると、光透過率を白の状態にするために印加する電圧が、従来の駆動方法ではV2であったものが、本発明の実施の形態ではV2より高いV1の電圧を印加することができる。従って、光透過率が黒から白に変化する時間は本発明の実施の形態の方が高速化することができる」。
 高い電圧を印加することは避けたい。

「T1からT6の各期間の平均電圧がほぼ0Vになるように各期間内で極性反転を行っている。これは、液晶が高速に動作するため、各期間毎に極性を反転すると、正の印加電圧と負の印加電圧の微妙な絶対値の差により、フリッカーが発生してしまうためある。コントラスト比の高い表示を行うためには、一周期で、液晶パネルの光透過率が変化した後、光透過率が元の状態に戻る必要がある。フレーム周期を短くすると光透過率が完全に元の状態に戻る前に次の周期に移ってしまい。コントラストが低下してしまう。一方、フレーム周期を遅くすればフリッカーが発生するなど、不具合が発生してしまう。」。
 この点は、会社側の主張では、解決されたそうです。

 実際、展示品の出来栄えは最高ですね。しかしながら、量産前ということ、展示品と量産品は別物という冷静さもほしい。(大原)


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