ナノテクノロジーの先陣を切って
 
−炎のファンドマネージャー−
 2000/10/26(木)発行分

【脚光浴びるカーボンナノチューブとその関連企業】

 企業が夢を追い求めるのと同様に、株式市場に参画する人々も常に夢にかけていこうとする人々によって支えられてきたと言っても過言ではない。過去において夢物語とされた技術が、当たり前のように一般的に使われ、私たちの暮らしに大いに役立っている製品群は数多いが、ここで紹介するカーボンナノチューブ(以下CNC)も未来の生活を大きく変えるものと考えて良い。まだ具体的な形で製品化に至ってはされていないものの、ここ数年以内には話題を集めるものと考えられる。

 読者の皆様も、既にどこかでこのことを見聞きされたことはあるのかも知れないが、まだ一般的にはなっておらず、大手証券の投資テーマとなったこともないに違いない。
 ここでは科学雑誌ではないので詳しい技術内容には触れないが、簡単にその概略を解説しておきたい。

 米国ではITやバイオに続き「ナノテクノロジー」を国家の戦略的研究分野と位置付け、5億ドルの予算を表明。ナノという単位については100万分の1ミリメートルという原子・分子サイズに相当。このナノテクノロジーは材料、化学、電子工学、機械、バイオ、医療、情報などの極めて広範囲な分野に渡る新しい技術概念とされる。
 既に日本のベンチャー企業が医薬品、遺伝子のドラッグデリバリーシステムを開発するなど、ナノ技術を追求した企業も育ち始めた。米国に負けじと日本でもナノテク振興策が打ち出され、松下(6752)、日立(6501)や三菱化学(4010)など約40社が参加した専門部会が発足した。

 微細化の限界が見えてきた半導体産業において、今後使われると見られるのがナノ技術。とりわけ、1991年にNEC(6701)の主席研究員である飯島氏が発見した全く新しい構造の炭素新素材であるCNCは、これまでのシリコン半導体の限界を克服する超微細化を実現する可能性が高く、今後の実用化が待たれるところだ。

 CNCは蜂の巣状の六角形の頂点に炭素原子が配置されている「グラファイトシート」を筒状に巻いて、極微な直径の円筒を形成した構造を持つ炭素の結晶。伝統的な竹細工の筒と類似している点で興味深い。
 これが金属にもなったり、半導体にもなったりするのでCNCそのもので極微小のトランジスタや集積回路などの電子素子が形成できることになる。こうした究極の半導体素子の開発によって、近未来においては手のひらに乗るスーパーコンピュータや角砂糖大の国会図書館などが実用化されることも考えられる。これが実現されれば情報通信の在り方を根本から変えてしまうことになろう。

 世界で初めて探針にCNCを使った原子間力顕微鏡が、セイコーインスツルメンツより発売され話題を呼んだが、この他ではTVの立ち上がりをスムーズにするためのヒータ余熱用待機電力を不要にする冷陰極ディスプレイ(ブラウン管の約100倍の電子放出能)への応用などが見られる。

 ノリタケ(5331)の子会社である伊勢電子では、CNCを用いた高輝度、低消費電力の薄型次世代カラーディスプレイの製品化が最終段階に入っている。遅くともこのCNCを使った壁掛けTVは、ここ2、3年以内には登場する見通しである。

 このほかリチウムイオン電池の高性能化への応用。CNCをPCなどに使用される充電型リチウム電池の陰極に数%混ぜると、電池性能を大幅に引き出せる能力がある。
 自動車メーカー各社が開発中の燃料電池向け水素吸蔵用素材(約5倍の吸蔵特性)や、炭素繊維の約40倍の強度を持つ新素材、更には超微細なロボットの筋肉など、様々な用途へ製品化が期待されている。

 こうした実用化努力は、既に大手電機メーカーや自動車会社、炭素材料会社などで始まっており、より具体的な成果が株式市場のニュースとなって飛び込む日も近い。
 これまで性能は優れていてもCNCの量産化が難しく、コスト高で応用範囲は限定されてきたが、昭和電工(4004)は6月に工業技術院物質工学工業研究所と共同で世界で初めて量産化に成功。かつて研究所ベースでは1日数グラム程度しか収量できず、しかもグラム当たり数万円という製造コストが掛かっていた。同社では微量の触媒を用いてCNCを原料ガスの中で浮遊しながらCNCを成長させて生産するに至った。同社には自動車、化学などの多くの企業からCNCの引き合いを受けている。これによって応用範囲は拡大し、これが更なる量産化に繋がろうとしてしている。
 また、大阪ガス(9532)では98年6月にCNCの高純度合成法の確立に世界で初めて成功。現在、大量生産に向けて開発が進められている。

 恐らく、CNCに関連した企業は今後製品の実用化が進むに連れ増加してくるだろうが、NEC(6701)、日立(6501)、松下(6752)、ノリタケ(5331)、昭和電工(4010)、三菱化(4010)、大阪ガス(9532)などの企業に当面は注目したい。


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