投資技術としての特許リーディング 第4回
 
−大原部長−
 2000/11/01(水)発行分

 株式投資は、第一に着眼点、第二に対象企業への質問項目がポイントです。
 着眼点とは、こうなったら都合がいいなあ、というアイデアです。たとえば、キャノンなら、トナーやカートリッジが沢山売れるためには、白黒じゃなくて、カラープリンタが普及すれば、トナーの量が格段に多くなるのではないか、という都合のよい発想です。カラー写真のように、べた塗りをするのと、白黒のように文字部分だけトナーを用いるのとは、10倍程度使用量が違うはずです。なぜなら、カラーは赤、青、緑の3色のトナーをそれぞれ紙面全面に使用するからです。そうなるとキャノンを買うかどうかの着眼は、カラートナーの製造コストだけを見ればよいことになります。

【意欲的な読者への宿題】
 特許検索でカラートナーとモノクロトナーの製造方法を「従来の技術」と比べてみてください。(回答は1週間後にこのシリーズで行います。上手く検索できない方は、お気軽にお問い合わせください)

 第二のポイント、質問項目ですが、第一の着眼点が正しいかどうかをチェックするためのものです。
 例えば、私は、双葉電子(6986)という会社を訪問する予定になっています。彼らの蛍光表示管技術の要素技術をチェックするためです。もちろん、要素技術が次世代ディスプレイ(EL)への展開力を持つものかをチェックするためです。展開力がないなら、新しい要素技術をどこから持ってくるのか?
 これは、経営者の資質の問題でもあります。しかし、私は、蛍光表示管というものについて、甚だ勉強不足でした。
 そこで、「双葉電子」と「蛍光表示管」でキーワード検索し、蛍光表示管に関する彼らの特許を見つけ、その特許から「従来の技術」部分を抜き出しました。そして、文脈を整理し、蛍光表示管の機能ごとにまとめ、質問項目を作成しました。

質問次項作成例:
「従来の技術」から抜粋した用語及び文書と蛍光表示管(双葉電子)の質問項目」
1)蛍光表時管の長所と短所(厚さ、大きさ、輝度、コントラスト、コストなど)、次世代ディスプレイ候補(有機EL)との競合との兼ね合いをどう見るのか?(着眼点)
2)構成部材におけるブレークスルーと今後のコストカットの方向性(以下 「従来の技術」から抜粋。これは、質問項目の作成作業です)

「蛍光表示管は陽極、電極、陰極、駆動IC、フレームからなる」。従って、機能ごとのコスト対応力を見極めていくことが必要ですね。各機能別の展開力を考えます。
a)陽極の展開「高精度な組付け」、「発光表示部となる蛍光体被着方法」。「蛍光体」そのものの性能アップは?蛍光体の使用量は?今後、どんな改善が見込まれるのか?
 ここで、括弧内の用語は「従来の技術」から、そのまま抜粋しました。
b)「制御電極」 メタルの形成方法を確認すること。
c)「電子源であるフィラメント状陰極」。ナノチューブみないな応用はできないのか。
d)高精細とコストの関係は?
e)駆動方法「表示を行わせる為に、各グリッドには順次桁信号(グリッドスキャン)のパルス電圧を加えていきながら、各アノードには各桁信号と同期してそれぞれのタイミングに応じて選択的にON(正)又はOFF(負)のパスル信号を加えている」…ドライバICのコストはどの程度なのか?
f)周辺部材「フレームは外囲器の封着部分を貫通するところから、Niが42%、Crが6%、残部Feからなる426合金のように熱膨張率がガラスに近い合金からなり、アンカーのようにばね性が要求される支持部はステンレス等の材料で構成される」。「組み立て時には、支持部を溶接したフレームをその上に載置し、さらに容器部を載せて組み立て、加熱して封着する」。…組み立て時のキーポイントを質問する。

 以上のように、「従来の技術」の部を用いて、質問の骨子を考えていくのです。言い換えれば、蛍光表示管の長所を正しく理解することが目的です。プロセスを理解して、ELや液晶と比べてみる。既存の製品の展開力を侮ってはならない。新しいものに飛びつく前に、既存製品のコスト対応力を見極めなければならない。 (大原)

 

 


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