【特許の「実施例」から製造工程を理解する】
前回の続きです。
プリンタに使用されるトナー(レーザビーム)とインク(インクジェット)を比較。キーワード検索し、関連特許を探します。トナーはキャリアと呼ばれることが多く、検索時のキーワードを選択するセンスは重要です。そのセンスも特許などの技術文書に慣れ親しんでいないと磨かれない。最初のうちは、技術的な文献が理解できないでしょう。しかし、それでも、読みつづけるような「修行」期間はどうしても必要です。
以下は、2つの特許(レーザビーム用トナー関連特許とインクジェット用インク関連特許)からそのまま抜粋したものです。
【特開平7−225497 電子写真現像剤用フェライトキャリア及び該キャリアを用いた現像剤】という特許から以下の工程を抽出しました。
まず、モノクロトナーですが、「磁性粒子としてフェライト。ですから、ミルで混ぜ、乾燥、仮焼成、焼成、粉砕、表面再酸化です。これに静電気の電性樹脂をコーティング。正荷電性トナーでは、フッ素系樹脂、縮合、型シリコーン樹脂、負荷性では、アクリル・スチレン系樹脂。
コーティング方法は、樹脂を溶剤に希釈。溶剤は各樹脂に可溶であればよい。浸漬法、スプレー法、などいろいろ。その後、溶剤を揮発。このような湿式でなく、乾式法もある。コーティング後、樹脂を熱硬化させる。融点以上の温度。冷却、解粉、粒度調整。」
次に、インクですが、これは材料が多い。(特開平6−122846 顔料分散剤及びそれを用いた水性顔料インクおよびインクジェット記録方式)から以下の工程を抽出しました。
「顔料にアルカリ可溶型樹脂を分散剤として形成。顔料粒子の微粒子化しつつ、水性媒体との界面張力を低下させるのが分散剤の役割。粒子の内側は、疎水性の有機顔料として、スチレン誘導体、アクリル酸エステルなど。粒子の外側は、親水性で、アクリル酸、水酸基など。粒子同士の凝固を防ぐためのノウハウや、長時間均一の特性を保持することも難しい。分散剤はキーのようです。黒顔料は、カーボングラックの微粒子、イエローインク、シアンインクは各種のPigmentブランド。作成方法は、分散樹脂と水を含む水溶液に顔料を添加し、攪拌。分散し、遠心分離処理。その後、分散剤を添加。攪拌。分散機は、高速のサンドミル、ロールミル。粉砕後、フィルタや遠心分離機で分級。」(一部筆者手直し)
なんだか、プリント基板のレジストインクのような世界です。防腐剤も入っている。界面活性剤も入っている。材料は、インクの方が高そうですね。
特許の「実施例」を読むと実際にどこのメーカの製造装置を使って、どこのメーカの材料を用いて、どれだけ時間をかけて作ったのか、すべてわかります。これをコスト計算に利用しない手はない(ここはわたしたちの運用の核心部分ですので、本当は書きたくないんですよ! 日本の運用機関にがんばってもらいたい!特に生保!しっかり運用してほしい!)
【億近コンサルタントTさんの見解】
「バブルジェットv.s.レーザープリンタですか!かなり興味深いですね。
まず、トナーですが、元粒子を粉砕にて作成後、絶縁樹脂の溶液にドブ付け等々もしくは絶縁樹脂を粒子上に重合させることでコートその後乾燥で出来上がりと簡単ですね。トナーに最も必要なことは、トナーの帯電量(トナーの抵抗をある範囲内でコントロール→樹脂量でコントロール)ですね。
一方、インクは、粒子の2次凝集防止&分散状態保持の為に顔料の微粒子上に何らかの樹脂をコートするまではまあほぼ同じ、しかし粒子経が圧倒的に小さいので大変ですね。また、分散媒中に何らかの添加剤を入れなくてはいけないし、インクの粘度も一定に保たなければいけないと、コントロールすべき項目がかなりあります。従って、現状ではトナーの方がコスト的には有利でしょうね。
しかし、将来はどうなるか?
当然のことながらプリンターに求められるのは、解像度upと階調upですよね。つまり、ドット径を小さくしていかなければならない。インクジェットの方はインクの吐出量を減らす(ノズル経を小さくする)事でドット径を小さくできるので、ヘッドの設計である程度対応できるのではないでしょうか?顔料の粒子径を小さくする必要が出てくるかもしれませんが…。
一方レーザープリンタはトナーの粒径=ドット径ですよね。従って、粒径を小さくしていかなければならない、ここで問題となってくるのは上で述べたトナーの帯電量です。粒径小さくしていって、樹脂量の精密なコントロールが出来るのか?分散、凝集や粘度のコントロールの方が容易になってこないか?」(以上、Tさんの見解)
こんなことをやっているうちに、エプソンの方がキヤノンよりよく見えてくる。だって、インクジェットではエプソンが有利ですから。エプソンの、ノズルと圧電素子で塗布するという方式は産業用途で生産工程に入り込んでくるでしょうね。こういうのを「要素技術」といいます。
要素技術の組み合わせで事業の価値は説明できます。1つの要素技術では参入障壁を築けない。2つの要素技術で、高い利益が狙える。しかし、続かない。3つの要素技術の組み合わせは高い利益を継続して達成できる。要素技術で、コストを説明できる。製品の価格は市場需要から説明できるのとは対照的です。
工程数や工程の内容、そして、材料でコストがわかる。だから、将来の利益も見えてくる。将来のコストが見えてくる。将来のコストと現状のコストの差が将来の決算上の「業績修正」であり、株式市場における、「サプライズ」です。特許を読めば、リスクが把握できる。だから運用が上手くなる。人に見えないものが見えるということですからね。
ここまで書いた以上、日本の機関投資家は私たちの調査プロセスの質という点で、がんばってキャッチアップしてほしい。私たちを含めて外人投資家はここまでやっているのだから。(大原)
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