投資技術としての特許リーディング 最終回
 
−大原部長−
 2000/11/24(金)発行分

 「えっ!スクリーン印刷でカーボンナノチューブ陰極形成ができるんですか!?」

 この連載は今回で終了しますが、これからもよい特許は皆様に紹介していきたい。
 今回は、カーボンナノチューブ(CNT)です。

 両津さんと2人でノリタケ(5331)を訪問。CNT電極の蛍光表示管を見て仰天。3万カンデアラでしたが、3百万カンデラまでいける。発熱もCRTと同様。発熱しない光源のニーズは強い。
 このコーナーでなぜか出てきた双葉電子の蛍光表示管。実は、CNTを探っていました。フィラメントの代りにCNTが使えると加熱が要らない。蛍光表示管はCRTと同様、耐久性抜群しかも低温などの劣悪環境でパフォーマンスが落ちない。有機VS無機の対決でいうならば、無機の代表選手です。CNTも無機側の将来のリーダーです。

 以下は、ノリタケグループの伊勢電子さんの特許2件です。
 フィラメント陰極とCNT陰極とのプロセス上特性上の違いに注目してください。98年に学会発表された上村さんのCNT印刷は世界の度肝をぬきました。なぜなら、それまでは、大多数は単層CNTをフィラメントのように垂直に立たせることにやっきになっていたからです。
 上村さんは、多層でもよいじゃないか、垂直じゃなくてもいいじゃないか、という逆転の発想があった。印刷したらその中には立っているものもあった。電子は容易に放出できた。これが世界初のCNTランプだった。私たちが、FEDに活路を見出したのはこのCNTに他ならない。こんなドラマを誰が想定しただろうか?
 最初の特許は、蛍光表示管の復習です。2番目が問題のCNT印刷です。あとは、CNTそのものの量産が残されている。昭和電工が鍵を握っている。量産技術については後日紹介します。


【公開番号】特許公開平11−329312
【公開日】平成11年(1999)11月30日
【発明の名称】蛍光表示装置およびその製造方法
【氏名又は名称】伊勢電子工業株式会社

【発明の詳細な説明】
【従来の技術】
 蛍光表示装置は、少なくとも一方が透明な真空容器の中で、電子放出部から放出される電子を蛍光体に衝突させてその蛍光体を発光させ、その発光光を利用する電子管である。この蛍光表示装置は、通常では、電子の働きを制御するためのグリッドを備えた3極管構造のものが最も多く用いられている。そして、従来では、電子放出部にフィラメントと呼ばれる陰極を用い、ここより放出される熱電子を蛍光体に衝突発光させていた。

【0007】
 所定の間隔を開けてフィラメントカソードが固定されている。

【0010】
【発明が解決しようとする課題】
 ところで、従来の蛍光表示装置に用いられていた電子放出部としてのフィラメント(フィラメントカソード)は、主に、直径7〜30μmのタングステンの細線に、電子放射性物質を塗布して形成している。その電子放出物質としては、一般に、酸化バリウム・酸化カルシウム・酸化ストロンチウムのいわゆる三元酸化物から構成するようにしている。ここで、これら酸化物は、空気中ではきわめて不安定である。このため、フィラメントの作製においては、まず、炭酸バリウム・炭酸カルシウム・炭酸ストロンチウムを、タングステン細線に外形が32〜35μmになるように塗布する。これらは、いわゆる炭酸塩の形である。そして、それを例えば、上述の画像管製造において各部品とともに組み込んだ上で、外囲器内を真空排気してエージングする段階で酸化物にしている。したがって、従来の蛍光表示装置では、電子放出部として上述したようなフィラメントを用いるようにしているため、次に示すような問題点があった。まず、非常に細く脆弱なフィラメントを架張して取り付け組み立てなければならないため、取り扱いに不便があった。また、上述したように、フィラメントカソードを作製するための工数も非常に多い状態であった。次に、フィラメントカソードから放出される電子流は、フィラメントカソードの温度に大きく左右される。このため、フィラメントカソードの両端支持部からの放熱が大きいと、フィラメントの位置によって電子流にバラツキが生じてしまう。これは、用いる蛍光表示装置によっては、蛍光面の発光にむらが発生する要因となる。また、フィラメントカソードの表面には、前述したように電子放射性物質が塗布されているが、これが蛍光表示装置の真空容器内における放出ガスに対して弱く、場合によっては、短時間に劣化してしまうことがあった。

【0013】
【課題を解決するための手段】
 この発明の蛍光表示装置は、そのエミッタは、円筒状のグラファイトの層からなる複数のカーボンナノチューブが長手方向を同一方向に向けて集合した集合体である柱状グラファイトの束から構成され、その柱状グラファイトの長手方向に垂直な電子放出面が、柱状グラファイトの先端部の位置がそろって平坦に形成されているようにした。

【0025】
 そして、カーボンナノチューブ121bは、例えば図1(d)に示すように、完全にグラファイト化して筒状をなし、その直径は4〜50nm程度であり、その長さは1μmオーダである。このカーボンナノチューブは、図1(d)では模式的に示したように、グラファイトの単層が円筒状に閉じた形状と、複数のグラファイトの層が入れ子構造的に積層し、それぞれのグラファイト層が円筒状に閉じた同軸多層構造となっている形状とがある。そして、それらの中心部分は、空洞となっている。また、その先端部は五員環が入ることにより閉じている。なお、おれることで先端が閉じていない場合もある。

【0032】
 ところで、カーボンナノチューブとナノポリヘドロン等の多のカーボン粉とでは、その分解温度(燃焼開始温度)が異なる。カーボンナノチューブは、空気中で700度以上に加熱すると分解して燃焼を始める。一方、ナノポリヘドロン等の他のカーボン粉は、空気中で650度以上に加熱すると分解して燃焼を始める。したがって、レーザ照射により、その照射部位の温度が650度を多少越える程度とすることで、電子放出面202aにおいて、カーボンナノチューブ以外のカーボン粉を除去することができる。この結果、電子放出面202aにおいては、カーボンナノチューブ先端部が露出している割合が増加し、電子放出面202aからの電子放出効率を向上させることができる。

【0033】
 この選択除去のためのレーザビームの照射は、たとえば、電子放出面202aに対して垂直な状態とした、例えば、ビーム径100〜200μmのCO2レーザビーム(パルス発振)を出力200W程度とし、主走査速度約10mm/secとして照射すればよい。

【0040】
 この発明によれば、蛍光表示装置の電子放出部を、フィラメントのような脆弱な部品を用いることなく作製できるようになり、ひいては、蛍光表示装置をより容易に製造できるようになる。また、エミッタを構成複数の柱状グラファイトのそれぞれの先端部と蛍光面との距離がほぼ等しい状態とすることが容易にでき、したがって、均一な電子放出状態を容易に得ることができる。また、実際に電子が放出されるカーボンナノチューブを容易に露出した状態とでき、したがって、電子放出特性の向上を容易に図ることができる。


【公開番号】 特許公開2000−63726
【公開日】平成12年2月29日
【発明の名称】導電性ペースト
【氏名又は名称】伊勢電子工業株式会社

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
 この発明は、導電性を有したパターンを印刷などで形成するためのインクなどとして用いられる導電性ペーストに関する。

【0009】
【課題を解決するための手段】
 この発明の導電性ペーストは、有機溶剤中に樹脂が溶解されているビヒクルと、そのビヒクル中に分散された円筒状のグラファイトの層からなる複数のカーボンナノチューブとから構成するようにした。このように構成したので、この導電性ペーストを用いて形成したパターンを焼成すると、カーボンナノチューブからなるパターンとなる。ビヒクルは、基本的には、分解および揮発性の良い材料であり、例えば、大気空気中で300〜400度程度で加熱することで除去できるものである。カーボンナノチューブ101は、完全にグラファイト化して筒状をなし、その直径は4〜50nm程度であり、その長さは1μmオーダである。そして、図1(b)に示すように、カーボンナノチューブ101の先端部は、五員環が入ることにより閉じている。なお、おれることで先端が閉じていない場合もある。導電性ペーストを、蛍光表示管の蛍光体層が形成されるアノード電極の形成に用いるようにしたが、これに限るものではない。カーボンナノチューブによる導電ペーストを、陰極線管のメタルバック膜上に薄く塗布し、これを焼成することで薄膜を形成すれば、それが、シャドウマスクからの輻射熱を有効に逃がせる熱伝導性膜となる。
*****また、カーボンナノチューブによる導電性ペーストを用いて板状の電極表面に印刷パターンを形成し、これを焼成することで、その電極表面にカーボンナノチューブからなるパターンを形成すれば、電界放出型の電子放出源として用いることができる。*****
 前述したように、カーボンナノチューブは非常に細い構造体であるので、真空排気中で電圧を印加することで、カーボンナノチューブ先端より、容易に電子を放出させることができる。(以上2特許とも、その内容はかなり筆者が簡略化しました。 大原)

 


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