アジア経済
 
−生涯遊人−
 2000/11/30(木)発行分

 先週の素朴な疑問で、「中国の高い経済成長にもかかわらず、ファンドの成績が悪いのは何故か」という方がいらっしゃいましたが、新興国投資に興味のある筆者も、少し調べてみました。

 実際、中国の経済指標は2000年度予想で、

GDP
8%以上
個人消費
8.5%以上
輸出
25%増加
輸入
32%増加
消費者物価
0.4%

と好調ですが、これは、韓国、香港、マレーシア、シンガポールなどと同じ程度で、逆にこれだけの成長率にもかかわらず、消費者物価が低いのは、いくぶんデフレ傾向があるのかなとも思います。

 これは香港も同様で、−3〜−4%程消費者物価が落ちています。香港に関しては後で述べますが、1997年のアジア危機の影響で、資産価格の下落の影響がまだ残っているいるようにも思えます。

 さて、アジア全般に株式市場の下落は、1997年のアジア危機が発端となりましたが、ここで、もう一度振り返ってみましょう。

 1980年台から急速に工業化したこれらアジア新興国群は、自国の資本市場が未成熟であったため、多くの資金を外資に頼っていました。しかも資金の借り手、貸し手の双方に都合が良い(リスクがない)ように、自国通貨を基軸通貨の$に固定させる、ドルぺッグ制をとっていました。
 これらのドルぺッグ制は、香港ではカレンシーボード制と呼ばれ、1$をほぼ7.8HKに、タイではもう少しレンジに幅をもたせ、1$=20−25バーツにほぼ固定していました。
 このため、資金の貸し手(外国資本)、資金の借り手ともに、為替リスクを負うことなく、貸し手はこれらの国の高い金利をエンジョイし(これをキャリートレードと呼ぶ)、借り手は国内金利より低い金利で、借り入れができました。
 しかし、投資の世界でそんなに旨い話が長続きするはずもなく、やがて破局に向かいました。
その理由としては、
1)これらの(タイの場合)国の経常収支が、危険なレベルに達してきた。これは中国が、1994年に人民元を1$=5.9元から1$=8.6元に33%切り下げたため(WTO加盟の準備に)、相対的に中国製品の価格競争力が高まり、これらアジア諸国の経常収支の悪化原因となった。
2)インフレ率の上昇。これは、ドルぺッグ制を取っているため、為替の変動による調整機能が働かないために、インフレが加速した。
3)これらの国では、借り入れたドルを設備投資などに使わず、余剰資金が株式不動産市場に流れ込み、バブルの様相を呈しはじめた。

 このように、実力以上に評価されたこれら通貨は、やがて1997年夏、タイを発端に、50−70%切り下げられるまで売り浴びせられました。
 これらの通貨の売り手は、一部の投機家だけでなく、資金の貸し手、借り手双方ともに引き上げ、返済のために$買いアジア通貨売りを行いました。
 またアジア諸国の金融当局は、通貨防衛のために金利を引き上げ、これらの諸国の株式不動産市場は、金利引き上げと流動性の枯渇のために、暴落していきました。

 アジア諸国の市場は、通貨、株式市場ともに規模が大きくなく、一度期の資金の流入により、相場を押し上げることも可能だが、その分暴落の危険性も伴います。
 流動性というのは、短期、長期の投資家に係わらず非常に重要で、これが不足すると相場の変動性が異常に高まり、時として大きな損害を被ることになります。
 アジア諸国の中で、唯一、香港だけは通貨防衛に成功しましたが、その代償として金利に引き上げにより、株式、不動産市場は、暴落しました。

 これらが、1997年夏に起こったアジア危機の概要ですが、ここでこれらアジア諸国の持つ特色をまとめてみましょう。

【経済的側面】
1)国内の資本基盤が弱く、投資資金として外資に依存している。
2)とりわけ米国からの資金が多く(ここ数年の資金の流れとして、米国が世界の資金を集め、それが新興国などに再循環している)、そのためナスダックなどとの連動性が高い。
3)輸出主導型経済であるため、先進国、とりわけ米国の景気状況に経常収支が左右される。
4)クローニーキャピタリズム(仲間内資本主義)と呼ばれるように、西洋人からは、理解できない経済。これは、一部の財閥、有力者、政治家、軍隊などの特権階級が経済を牛耳り、情報公開と改革ができない状態。コネが重要な経済。

【マーケット的側面】
1)株式、為替市場ともに流動性が低い為、大量の取引が難しく、相場の変動性が高い。
2)さまざまな規制があり、為替などは、ヘッジ取引が難しい。
3)ある日突然規制が変わったり、為替レートの切り下げがある可能性がある。
4)香港、中国を除いて、中央銀行の外貨準備がさほど大きくなく、介入効果があまり期待できない(シンガポールも比較的、安定している)。

【政治的側面】
1)西洋人から見ると、民主主義とは程遠い国がある。
2)一部の国を除き、政治的に不安定な要素が多い。
3)経済が順調な内は、政治的不安定さ、貧富の差があまり問題にならないが、悪くなると、これらの問題が一度に現れる。

 台湾、シンガポールなど、政治的にも経済的にも安定していて問題のあまりない国もあるが、同じアジアということで、連想売りの対象になった国もあります。
 そして、アジア危機以降、政変が起こった国も多く、IMF指導下で、様々な改革に取り組んでいますが、残念ながらこれらの問題は未だに解決されていません。(生涯遊人)

 


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