日本ファウンダリー(店6939) 2002/09/29更新

2002/09/24(火)

UMCJ(店6939) ☆☆☆

 坂本社長が退任した。

 数ヶ月前から社長交代のうわさが流れ、最近は社長交代に関しての質問に「ノーコメント」的な対応をされていたそうであるが、株価は業績の見通し修正に加え、経営者交代という電撃ネガティブニュースで40%急落、1週間で株価は20万円から12万円となった。

 もともと坂本社長はオーナーではなく、雇われ社長であり、どこに転職しようが彼の自由という見方もある。たしかに、コンソーシアムファブなどの壮大な構想を掲げ、現実を直視し、日本の大手半導体メーカを前にズバズバとモノをいい、従業員からも人気があり、経営者としてはすばらしい資質を有した方というのが衆目の一致した見方であろう。ぼろぼろになって、瀕死状態の日本の多くの半導体メーカが経営力を強化しなければならないことを考えると、日本企業から複数のヘッドハントの話が来ているというのも肯ける。

 台湾本社も、独自色を強める坂本社長を警戒していたのかもしれない。「坂本暴走」の危惧から、日本にあまり自由にやらせるべきではないという意見も本社内にあったようである。

 辞めるにしろ、辞めさせられたにしろ、急な退任劇は社内のコンセンサスが十分でなかったことを物語る。交代するにしても、投資家の存在を考えれば、一定の認知期間を置くべきであっただろう。

 強く疑問に思うのだが、上場公開企業の社長とはそれほど軽々しく転職してよいものであろうか。
 社会的な使命や責任というものも一方にあるわけだから。

 経営者の資質については、いろんなところで、企業を見るうえで非常に重要なポイントであると、絶えずうるさくいっていたが、経営をいろいろな角度でチェックしてきた私にしても、根本的な点でノーチェックだったことを素直に反省している。
いままでは、
 会社への忠誠

 愛社精神
 というものを経営のチェックポイントにいれていなかった。

 また、「経営ビジョンの長期的な安定見通し」という項目も新たに必要であると認識を持たされた。

 果たして、UMCJは坂本前社長の経営理念やコンソーシアムファブ構想を引き継ぐことはできるだろうか。

 UMCJがユニークなファンドリーであることは間違いない。日本という多くの半導体設計拠点がある地理的に恵まれた状況にあり、幸いにして、競合もそれほどなく、それが高いバリエーションを正当化していた。その基本的な線はまだ守られている。

 日本国内独自の状況や戦略を維持できると見る見方はある。それは坂本さんがいまだアドバイザーとしてUMCにとどまる点である。完全な決裂ではないということだ。そして、噂されているのは、エルピーダの社長への就任だが、これも日本半導体の再編にとってはいい話かもしれない。

 しかし、大きな仕事ややりがいのある仕事に飛びつく前に、社会的責任を社長として果たすべきであったのだろう。多くの投資家を期待させ、最終的には失望させた坂本社長の交代劇には、失望を感じ得ない。そして、経営者を見る目を養うにはよいケーススタディだったが、わたしには高い授業料となった。最悪のケースとしては、台湾UMC色の強まりと共に、UMCJの店頭登録の取り消しという道も将来残されている。いまのところはその懸念はないようだが。

 コリンズのビジョナリーカンパニー2を読まれただろうか。コリンズは、頑ななまでに外部からヘッドハントされた「辣腕」経営者に否定的だった。その理由が私にもようやく肌身にしみてわかったような気がした。(大原)

 

2001/09/11(火)

日本ファウンダリー(店6939) ☆☆☆☆☆

 株価はリバウンド。欧米中心に受注が改善、稼働率がやや上昇。そのため、赤字を見込んでいたが、4Q黒転の可能性が大きくなった。
 まだ、本格回復はないが、一息つけそうだ。米国の通信関連が在庫調整が進み、注文を出し始めたことが大きい。

 コンソーシアムファブの話も、再開されている。ただ、日本への工場誘致となる可能性は低い。

 今回の稼働率上昇が持続するかどうかはまだ判断はつかない。いずれにしても、世界で戦えるコスト競争力を十分に有している。

 不況をばねに次の飛躍を狙っている。(大原)

 

2001/06/21(木)

日本ファウンダリー(店6939) ☆☆☆☆☆

 総合評価:強い期待をもって買い
 経営:日本では最高レベルの経営
 従業員レベル:日本有数の活性度
 財務内容:業界随一 最良

【日本の現状】

 問題山積み。デフレ。日本がデフレに陥っていることは実は問題ではない。「デフレが悪い」「デフレを正すべき」と政治家が堂々と主張することが、問題の根の深さを示している。 なぜなら、日本に競争力があれば、デフレは起こらないからだ。
 先日、中国のコラムでも紹介したが、アジア各国は、日本よりも真剣に国内産業を育てようとしている。日本は真剣さでアジアに圧倒的に負けている。

 アジア各国は、当然、誘致企業に対して税金はとらない(中国、台湾、マレイシア、シンガポール)。5年とか10年の期間は免税だ。免税措置が終了したとき、再度、免税の交渉が可能である。土地も無償用意する。人も教育を施したうえで、優秀なエンジニアを用意してくれる。日本は新人を自前で教育するが費用は企業がもつ。

 5年前、「空洞化」という言葉が流行った。国内から海外へ生産拠点が移っていく現象だ。騒がれたわりに、その後、なにも変わっていない。円高で、町工場や中小企業は大打撃を受けた。大企業は海外工場を急いで建設。国内中小企業では、職人的な技術者が高齢のまま細々と残り、若者たちは3Kの職場を嫌い、フリーターとなった(現在フリーターは全国で300万人といわれている)。

 日本には、税金の免除がない。法人税と地方税であわせて43%。安価な外人労働は厳しい規制下にある。投資へのサポートもない。電力などのインフラ関連の料金はアジアの2倍だ。研修の費用も認められない。出張旅費も経費にならない。通信費は高い。工場の増築などは、何十もの書類を提出しなければならない。建設許可までの時間がかかりすぎる。許可が下りないため、投資がやりたいときにできない。
 そのうえ、日本の人件費は、中国の20倍だ。
 それでは、日本の学生は、よほど優秀でクリエーティブでモーレツに働くのだろうか?
 残念ながら、学生のレベルはアジア各国中、最低である(特に数学オリンピック、プログラミング大会などでの劣勢が明らか。有名私立大学文系の学生のうち、半分が分数計算を満足にできないと言われている)。
 それならば、日本企業の経営者は、極めて優秀であるべきだろう。実体はどうか? 残念ながら、プロといえる経営者は数えるほどしかいない。

 インフラコスト、税金、人材、経営。すべてのファクターでこれほど日本とアジアとは大差がついてしまった。絶望的な環境下。ついに、競争力を失ったまま、なくした競争力を補う形で円安傾向・デフレ傾向となった。極めて危険な状況であるが、構造的には正しい動きであり、デフレは、理屈からすれば、そうならざるを得ないほど当たり前のことだ。

 ならば、わたしたちは、社会に対して、どれほどの努力を払ったのか? 政治や行政は、なにもできなかった。
 権益団体の意向ばかり気にした。何百兆円が無駄な公共投資につぎ込まれた。仕事が増えたのは、公務員だった。時限立法的な減税はなされたが、極めて不十分なものとなった。海外からの誘致どころではない。国内企業さえも愛想をつかしてしまった。政治が、企業や国民に日本のあり方を問う姿勢を失った。
 大学や研究機関はどうしてよいのかわからなかった。 高校や中学における理科数学離れが深刻すぎた。基礎的な化学や物理のコースを新しく準備しなければならなくなった。大学の負担ばかりが増えた。
 一方で、産業界(日本企業)がなにを望んでいるのかがわからず、学生に具体的なテーマが示すことができなくなった。技術立国のビジョンを示せなくなった。

 一番努力したのは、企業だった。 企業は、銀行との付き合いを見直し、必要に迫られてリストラを断行した。市場を無視できなくなった。投資家の方を向きだした。利益に対して責任がある以上、海外に生産拠点を移さざるを得なかった。
 しかし、目先のコストダウンに必死で、本来の事業ポートフォーリオの抜本的な見直しはなされなかった。この点が海外の競合メーカは違っていた。努力はしたが、その努力は相対的には微々たるものであった。それほど、海外企業の取捨選択ははっきりしていた。
 日本企業の多角化の見直しはゆっくりとしたものとなった。事業の取捨選択があいまいとなった。企業家ら若い人たちに日本が特化すべき事業分野をはっきりと示すことができなかった。コアのビジネスだけを残すことができなかった。R/Dを絞ることができず、教育サイドへメッセージを伝えるという役割を失った。

【日本凋落の象徴 半導体産業】

 そのもっともよい日本凋落の例が、半導体業界だろう。
 半導体業界は、80年代もっとも期待された日本の星だった。
 しかし、欧米競合他社は、極めて正統的な戦略をとり、巻き返した。
 事業の選択と集中である。
 マイクロンはDRAM、インテルは、MPU、TIはDSP、LSIはASIC、SGSはディスクリートに特化した。

 そのとき、日本勢は、そのすべてのプロダクトを追い求め、そして、敗れ去った。当然の帰結だった。マイクロンが2000億円をR/Dに投資する場合、それは、2000億円をDRAMにつぎ込むということを意味する。

 しかし、日立が2000億円を半導体につぎ込むという場合、それは、マイコンに百億、メモリーに百億、アナログに百億、フラッシュに百億ということを意味する。それだけにとどまらず、電力システムに数十億、産業機械に数十億、汎用コンピュータ事業に数十億、電線設備にも金属精錬にも磁石にもソフトウエアにも満遍なく投資を配分してきたのである。「すべての事業に平等な機会を」。2000億円 VS 20億円。競争にならない。

 海外の半導体業界では、プロダクトの取捨選択だけでは、勝負がつかず、同じプロダクト内でも設計、製造、販売などの分業が進んでいった。デザインハウスという設計だけを考える会社が伸びた。ファウンドリーという製造だけを請け負う会社が成長した。
 かつて日本が強かった製造プロセスに関しても、分業化の流れでファウンドリーが伸びるのと正比例するかのように、日本製造業の優位性は消え去った。

 残念だが、日本は終わっている。終わっているという認識なしに、始まることさえできない。 デフレを当然のものとして受け入れよう。

 日本の選択肢は2つ。
 1つは、とことんデフレを推進すること。結果としてコスト競争力は回復する。

 もう1つは、有機的に教育、税制、資本市場、経営、投資家育成を結び付ける方法がある。徹底的に小さな政府を実現し(政治改革)、経営者は事業を厳しく選別する(リストラ)、大学は選別された事業を研究・フォロー(教育改革)、国民は市場を通じて資金提供に参加(投資家育成)。

 問題点は、はっきりしている。
 デフレは不良債権を増大させる。だから、金融機関への支援は欠かせない。
 一方、改革はリストラを前提とする。失業問題が立ちはだかる。
 経営者は、多数の事業を切り捨てることができない。
 かつてお世話になった先輩や、必死でついてきた後輩を誰が首にできようか。そんな非道なことはできないだろう。仲間と一緒に過ごした時間は長く、投資家は、なじみがなく、普段の企業生活には無縁の存在だ。利益よりも仲間をとってしまう。
 それはある意味でしかたのないことだろう。
 デフレは競争力を回復するまで、とまらないだろう。

 一方、リストラの受け皿をどうするのか。その筋道が見えない。だから、この選択肢はないと多くの経営者は諦めざるを得ない。日本沈没を覚悟しながら。

 しかし、諦めない男がいた。日本ファウンドリーの社長、坂本幸雄である。

【日本復活のプロジェクトを描く男 坂本幸雄】

 坂本の社長就任から丁度1年がたった。中肉中背やや小柄で、グレーのスーツに地味な眼鏡。昨日のセミナー会場での坂本の外見は、しがないそこらの中年サラリーマンのようだった。しかし、ここ数ヶ月、積極的に投資家の前に出てNFIをアピールしてきた。坂本の歯に衣をつけないモノいいは、いつしか株式市場から注目を集めるようになっていた。

 坂本は、日本TIの副社長を務め、神戸製鋼と米マイクロンとのDRAM合弁会社の経営に携わった。TI27年間では、半導体のプロセス開発本部長を務めた。業界に対する思い入れも、知識も、決断のスピードも、情熱もある男だ。

 後で述べるが、坂本は、山積みとなった日本の問題点を一気に解決してしまおうと考えていた。
坂本は言う。

「政府は何もするな。とにかく無駄を排し、政治家や公務員は10分の1にしろ。」
「デフレは歓迎だ。もっと安くなれ。工場用地・電気代などインフラがまだまだ高すぎる。」

 坂本の主張は、株式市場の多数派である。投資家はそれだけで、坂本を応援してしまう。

「NFIの外人社員が運転免許を取得しようとしたが、5回受けて、5回とも落ちた。説明を求めたが、試験官は明確な説明が出来なかった。運転歴の長い彼は落ちたが、運転歴のない彼の奥さんは初回のテストで通った。理由は、彼の奥さんが美人だったからだ。日本は、おかしなシステムを持った明確な基準がない国だという印象を与えている」。

「われわれは、世界中からの人材に対して開放的でなくてはならない。企業間の人材の移動についても柔軟でなければならない。」

「アメリカが強いのは、アメリカ人が優秀だからではなく、世界中から優秀な人材が集まるからだ」。

「ウエストコーストでは、アメリカ人は5時に帰る、日本人は飲みに行く、中国人とインド人は徹夜で仕事をするというジョークがある」。

「TIではいろいろなアーキティクテャをいろいろな角度からディスカッションする。その際、上司も部下もへったくれもない。仕事がやりたくてやっている。ところが、神戸製鋼では、仕事がやりたくて入った者がいない。神戸製鋼だから入ったという人間が多い」。

「経営はスピードである。スピードといっているのに、日本の経営は、すぐに現場にデータを求める。データを求めるのは、業界の知識がないから。よい経営者はデータに意味がないということを知っている。経営のスピード化には、半導体の市場・技術・オペレーションなどに対する造詣が必要。その知識なしにどうして経営スピードが改善されるのか?」

「ラジオは30年で普及した。テレビは13年で普及した。インターネットは5年で普及した。だから、垂直立ち上げで、事業立ち上げ当初から利益を十分に取れないなら負けだ」。

「スピードの欠如は、利益を失う。だからスピードが重要。4年に一回のモデルチェンジなら対応できるが、いまは、1年に一回のモデルチェンジだ。それでも利益を出さなければならない」。

「日本では、38才で課長、44才で次長、47才で部長、55才で取締役。事業に責任をもてるのは55才からだ。しかし、この業界は経営者の体力も重要。40才程度が社長をやるのが望ましい」。

坂本が目指すものは、「企業も国家も明確な基準と明確なルールに則った運営」である。
「問題をひとつひとつ独立に取り上げないで、総合的に解決する姿勢」である。

 坂本は、外国人労働者を日本に呼ぶべきだという。外国人は、自由にビザやパスポートが取れない。状況が許せば、中国の優秀な学生(進学率は10%以下。極めて優秀である)は喜んで日本に来るだろう。だが、政府は日本の安全な国のままでいてほしいという。

「ならば、日本経済が競争力を失って経済が疲弊してしまえば、どっちみち安 全な社会ではなくなる、といいたい。物騒な世の中は経済が悪くなれば来る。米国だって好況なら安全な国だ。ところが、不況になれば、危険な国に変貌する。安全だけをとりだして経済と別問題だというのはおかしい」。

 日本の半導体各社については、
「製品構成が悪すぎる。差別化製品と消耗品の区別、カスタムとスタンダードの区別が出来ていない。日本はカスタムの消耗品という一番儲からないことをやっている。欧米はスタンダードの差別化製品をやっている」。

「カスタムから入るのは、日米ともに同じ。日本はコストダウンに走り、顧客ニーズから価格を不必要に下げていき、結局消耗品を作っている。欧米は、カスタムから入るが、それをスタンダードにしようと悪戦苦闘する。デファクトにするためにどうしたらよいか、ありとあらゆることを考え抜く」。

それでは、日本の半導体業界はどうすればよい?坂本は指摘する。

1)「工場が多すぎる。前工程も後工程も多すぎる。ひとつに集約すべきだ」。
2)「企業間のつながりにこだわり、原料や装置を最低価格で購入していない」。
3)「製造ラインにベストの人材を投入していない」。
4)「不況のとき投資しないで、好況時に投資し、投資効率を悪くしている」。
5)「勝手にコストダウンのスイートスポットを想定して、月産3万枚程度としている」
6)「販売会社が多すぎる」。

坂本は続けた。

「昨日と同じビジネスをやっていて、キャッシュ・カウ製品を生み出すことなどできない。同じことをやっていれば、勝手に競合者が脱落して、自分だけが勝ち残るというのはありえない。なにもやらないのなら経営なんていらない」。

「なぜ不採算事業をやめないのか。あるものは供給者責任があるからだといった。それなら利益の責任はどうなるのだ。われわれ経営者には利益を出すという責任がある。利益が出せないような供給者責任などない。本当に供給がほしければ、値上げを交渉するのが筋だ。値上げ交渉もできないなら経営者は失格だ。製品群を沢山残したまま継続していけばよいなら、経営者はいらない。製品の取捨選択をするために、経営者が必要だ」。

 ここで坂本は、ひとつの例をあげた。インテルがどのようにデファクトを獲得したかについてだ。

「8086のとき、競合は7社。80186/286のとき、3社になった。80386ではAMD一社になった。そして486ではセカンドソースがいなくなった」。

もう一つの例は、
「ある海外メーカは、不採算製品をキャッシュ・カウ製品にしようと思い立った。製造工場4つを1つにした。組み立ては4つを1つにした。世界各国の販売網を放棄して、一社の代理店にすべて任せた。そして、市場シェア40%を獲得するに至った。粗利は20%から60%以上に改善した。一方で、競合のある日本企業は相変わらず多数の製造工場と組み立て工場を持ち、マーケティングを自前で世界各国でやっている。市場シェア10−20%のわりに粗利は30%以下、ライバルの半分以下の粗利だ」。

付加価値の考え方はどうか?

「製品設計やアプリケーションで付加価値がとれよう。ところが、生産や物流はなかなか付加価値がとれないだろう。だから日本企業は、アプリケーション開発や設計に資源を集中投資すべきだ」。

「NFIが日本半導体業界の製造を担う。日本半導体業界は、各社、設計とアプリケーションに特化し、世界のデファクトを狙う。大学もグラフィックチップなどの映像やマイコンなどの日本がまだ競争できる分野に教育資源を集中する。政府は外国に門戸を開き、優秀な外国人を積極的に企業が採用できるようにする。誘致された工場には税金をかけない。企業は、経営者の1/3は他社の経験をもったものを登用する。各社にとって過大な300mmウ エハーの投資を分散してやっても勝てない。世界に勝つために、日本半導体業界の総力を結集すべきだ。5社程度各社300億円づつ1500億円をNFI新株式か転換社債のかたちで購入してもらいたい。NFIは独自で1500億円調達し、経営の独立を守る。合計3000億円を次世代300mmウエハー工場に使わせてほしい。各社の保有する工場の中から、土地を取得したい。投資が安く済むからだ。土地を頂ける企業からはリストラ人員を受け入れる。リストラの受け皿になる」。 

これが、有名な「コンソーシアム・ファブ」の構想である。
 日本の半導体は事業の選択と集中を実行できる。日本は復活のきっかけを与えられた。
 また、企業からのリストラ人員は受け入れられる。
 まさに、一石二鳥の壮大なプロジェクトをぶち上げた。
 日本の半導体各社とも総論賛成である。参加を決定した半導体メーカはいまだなし。坂本は今年中に参加者を決定し、2003年か2004年には工場を稼動させたいとしている。

【NFIという会社】

 それでは、NFIはどれほどのコスト競争力があるのか。
 一般的に半導体メーカのウエハー1枚当たりの生産コストは13万円から18万円。
 これに対し、「NFIはその半分以下。具体的には申し上げられないが、半分以下のコスト である」(坂本)。

 投資金額はウエハー1000枚当たり他社が60−80億円に対し、NFIは30億円という。
 スペース効率は1m290枚と他社の2倍以上の効率を達成した。従業員数は、同規模の工場で他社は1500人だが、NFIは700人である。

 財務内容もよい。自己資本比率は75%。不況下の投資が可能な所以だ。

 独自の勤労意欲促進計画を持っている。
「業績連動給与だが、みんなのやる気をそぐようなものではだめだ。個人差は昇格でつける。昇給は会社の利益に連動する。最大で、年収の50%を上乗せする。ストックオプション・第3者割当(約13万株)や特別賞与は全員に支給している。昨年の株価のピーク時で部長クラスで3億円の含み、課長クラスで1億円の含みがあった」(坂本)

「年齢や学歴、性別による差別をなくそうと努力している。どこの学校を出たかどうかは不問。それはタブーの質問だ。入社時は、みんな平社員からスタートする。社長を含む幹部への特別待遇も撤廃した。社長専用の駐車場もなく、雨の日には遅く出社すると近くに車が止められず雨でずぶぬれだ。テクニカルラダー、持ち家制度、バースデープレゼント、フィメールプログラム、スペシャルレコグニションプログラム、サプライジンズプログラムなどみんなのやる気がでるように経営者は配慮している。個人プレーで会社がよくなるはずがない。みんな一人一人が重要でみんなの努力で業績は支えられる」 (坂本)

【300mm投資について】

コンソーシアムプロジェクトのメリット顧客からすると、
1)十分なキャパの確保
 NFIコンソーシアム・ファブへ300億円投資すれば、月産8000枚のウエハーを作ることができる。(200mmでは16000枚分)
2)現金のバック(CBなら償還時)
3)NFI株価の上昇の恩恵
4)初期の投資リスクを回避
5)300mmで40000枚の場合、年間売上は7000億円となる。これを一社ではとてもできない。
6)独自のプロセスを指示できる。

 300mmをする意味があるのは、コストが下がる場合のみである。
 業界では300mmを今やる意味があるのは、インテルと台湾のTSMCとUMAだけと言われている。インテルのチップは大きく、台湾ファウンドリーは世界中から大きなチップを集めてくることができる。

 ところが、日本の会社の場合、作るチップが少なすぎる。総量としては多いが、各品種としては驚くほど少ない。ソニーのDVD向けチップの場合、月産50万。これが倍になっても300mmウエハーなら月産600枚で事足りる。各社の主力製品を集めても、一社では、遠く、4万枚には及ばない。だから、日本の半導体メーカは投資リスクを回避し、製造はファンドリーに委託せよ、というのがNFIの主張であり、もっともな考えである。

【半導体業界のユニクロ ― 驚異的なコスト競争力】

 NFIの圧倒的なコスト競争力はどこからでてくるのか?それは、
・不況時に思い切って投資するため
・装置や材料を最低価格で購入できること
・人員の生産性が高い、半分の人員で運営する意識の高さ
・スピードが速く、旬のものを旬のうちに生産できること

 装置はスタンダードな機能以外は求めない。他社からキャンセルされたものでもスタンダードな装置でよいため購入することができる。スタンダードな装置は、装置の納期も早い。市況のよいときと悪いとき、たとえばステッパーの価格は3倍ぐらい違ってしまう。

 通常、ラインの最適スポットを日本各社は3万枚とすることが多い。
 しかし、NFIは5万枚以上作っている。通常、5000枚からスタートし、3万枚までは劇的にコストが改善。それ以上生産してもコストは下がらない。NFIは5万枚つくるが、3万枚のときよりも十分コストが下がっているという。

 今年は260億円の投資だが、0.18μで6000枚の増強計画だった。しかし、装置を思ったより安く買えたため、同じ260億円で10000枚が作れるようになった。日本企業なら、節約して6000枚だけ増強して、投資を削るところだが、NFIは260億円使い、4000枚の増強を無料でしたと考える。4000枚のウエハーがもたらす利益は月8〜10億円。年間100億円の利益が上乗せできる計算になる。

 1000枚投資するとして、日立やNECが60億円投資し、NFIの投資は30億円で出来るとしよう。5年償却なら年間6億円のコスト優位性がある。
 これが、8万枚なら、6億円の80倍で毎年480億円のコスト優位の要因となる。人員2000人が半分の1000人で運営できるとしよう。これで100億円のコスト優位となる。

 新規工場の年間売上が3000億円としよう。逆説的に考えて、たとえば、NECや日立の半導体部門の利益がトントンとしよう。NFIは、償却軽減の480億円と100億円をあわせて利益が580億円となる。これは、20%の利益率だ。
 ピークでこのぐらいのイメージをしてもよいだろう。
 これに現状の平準的な利益が200億円とする。もちろん、今期は非常に厳しい状況なので、営業利益は数十億円となろう。しかし、この2年で5万枚への増強を果たす。そうなれば稼動100%で売上800億円は視野だ。
 そうなれば、既存設備で200から300億円の営業利益だ。
 すると長期的なNFIの営業利益は、新工場とあわせて800から900億円となろう。時価総額では、1兆円程度の価値となるかもしれない。

 そうなれば、潜在株が2倍。株価5倍の株数2倍だから、株価は長期的に2倍から3倍となる。目標株価は、今後2年で2百万円であろう。

【収益予想と株価】

 来期PER30倍程度。しかし、5年成長率が40%以上だ。営業利益は2005年か2006年12月に800億円。時価総額は1兆円目標だ。

株主になる意味と社会貢献
1)日本の産業の復活を応援できる
2)既存産業の人員リストラの受け皿を用意してあげられる
3)日本の競争力を高める方向に社会を導くことができる
4)日本の所得税や法人税を国際水準まで安くせよと主張できる
5)日本の理数教育にビジョンを与えられる
6)多くの優秀な若手研究者が、研究分野を絞り込むことができる
7)外人に対して差別のない社会を目指すことができる

【2010年日本の未来】

 三菱、沖、日立、シャープなどが参加したNFIコンソーシアム。各社は本体で、半導体の設計を強化することが出来た。
 その甲斐あって、映像デバイスや動画処理で日本は世界のスタンダードとなった。マイコンでは産業用途のみならず、家電用途でも日立がデファクトを獲得した。

 いまや、CMOSセンサーやCCDはそれぞれ年間1兆円の産業として日本を潤している。家庭に掃除ロボットなどが普及した。主婦は掃除から開放されている。

 日本は競争力を取り戻した。企業の平均的なROEは80年代から20年ぶりに10%の大台に乗せることができた。

 大学は、デジタル動画処理、映像デバイス、光部品などの講座を充実させた。企業が戦略を明確にしたおかげで、入学当初から映像デバイスを専攻したいという学生などが増化した。あらゆる設計がネット上で議論され、いまや、日本語がわからなければ、映像デバイスは作れないと世界からいわれるようになった。

 半導体設計を専門とするベンチャーが日本でもようやく次々と離陸した。ファウンドリーあってこそ、こうしたベンチャーが誕生できた。その意味で、NFIの果たした役割は大きかった。

 政府は、5年前に着手した公共事業の見直し計画を前倒しで完了した。いまや、国債の発行は数兆円規模となった。新規雇用を果たす企業への税金の免除期間が来年切れるが、延長するかどうかは、今年の総選挙の焦点になっている。

 投資家は、300万人から、政府の助成や育成プログラムの成功もあり、1000万人を突破した。東証の時価総額は、1000兆円を突破。いまや、米国株が日本株の動きに一喜一憂する事態となった。円は強くなった。いまや1ドル80円である。しかし、優秀な人材が世界から集まってくるようになった。ハーバードやコロンビアなどの有名大学の京都や東京への分校の設置が決まったところだ。

【あとがき】

 東京のNFIオフィスに社長を尋ねた。社長室はとても質素で8畳程度。オープンな社風。いつも社長室のドアは開けっ放しとなっている。
 受付にも人がいない。徹底したコスト意識。
 明確なビジョンとすぐれた経営力。それを支えるコスト競争力。NFIは日本の再生に欠かせない企業となった。

 TI時代から生産現場の人間を大切にする人だった。今でも現場から圧倒的な支持を得ているようだ。業界関係者からの話では、坂本さんを追ってNFI入社を希望する人も多いと聞いている。NFIの新規受注は、社長のトップセールスによるところも多い。

 7月後半か8月に正式な下方修正があると見る。現状の稼働率は厳しさを増している。

 だが、最近の株価の急落で、ようやく投資のタイミングがきた。株価は2年後200万円程度になっているだろう。(大原)

 

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