稲葉製作所(東3421)
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【業界動向】
物置業界は、住宅着工戸数と比較的高い相関性を持つ。住宅を建てた方は、まず室内の手入れを始め出し、物を購入、半年から1年経経過後、庭の手入れないし物置を購入するパターンが多く、住宅着工より半年から1年遅れて物置が売れる。
住宅着工は、バブル期より数こそ減少しているものの、同社の顧客となりうる戸建て住宅の比率は、92年の約2%から98年の約4%へと、土地価格の下落によりマーケットはむしろ拡大しているのである。
オフィス家具については、バブル崩壊後マーケット減少の一途であったが、ここへ来て明るい状況へと変化しつつある。特に需要期である3・4月の売上が大手中心に前年比2桁増になるなど回復感が出ているものの、「今まで絞っていた投資を緩めた程度」として楽観論は多く聞かれない。
【事業戦略】
昭和15年の設立以来、環境の変化・社会や顧客ニーズの多様化の中で、着実に新製品・新サービスの開発に努め、品目を拡大してきている。今でこそ稲葉の物置は有名であるが、当初はオフィス関連からスタートし、昭和48年に物置のOEMを開始し、昭和50年に自社ブランド製品を出荷。この時、コンペティターは全国に50社余りある中、同社は最後発でスタートするやいなや、それまで単なる「置いておけば良い箱」の発想から、同社独自の機能を強化し、今では国内シェア4割強のトップ企業に躍り出ており、物置メーカーも10社程度に減少している。
イナバらしいオリジナリティを徹底追求し、斬新さの中に見えない工夫を凝らす開発部門、最低ロットが1つでもこなす独自のラインを構築している生産部門、そして開発生産と代理店との接点に立つ営業が一体となり、イナバブランドを構築している。
【コメント】
株式公開後、同社業績は投資家の期待に応える結果とはならなかった。これは、前年及び2年前に2番手のヨドコウ及び3番手の田窪工業所が新製品を発表したためである。物置の業界は、通常6―7年のサイクルで新製品を発表し、ライバルの製品より形状・色彩などで優位性をアピールするため、新製品投入の効果は大きく、ライバルの製品は急激に人気が落ちる結果となる。
しかし同社では、昨年9月に21種類、今年2月に36種類の計57種類の新製品を投入し、形状・色彩の他、扉の板厚を従来の0.7ミリから0.8ミリとして、乙種防火戸対応にするなど、ライバルが未だ0.4ミリの薄板の中、機能的にも真似されない質を(人間工学的な五感も考慮している)従来の価格で提供しており、この好影響が2月から出始めている。
今回の新製品に関しては、他社は追従できないと同社はいう。それは、同社の徹底した一貫生産システムにある。ライバルは製造工程の一部を外注に出しており、その分の歩留まり悪化と物流費が同社以上に嵩張り、今回の新製品は機能的に他社が真似できない価格設定をしているためである。
また、オフィス家具部門も期待される。現在内田洋行向けにOEM供給しているが、内田とバッティングしない範囲で積極的に自社ブランドの拡販を図っていくという。そのため仙台・静岡そして大阪にショールームを作り、足元自社ブランド製品がかなりの牽引役になってきている。
しかし、まだ課題も多い。イナバは物置のイメージが先行し、オフィス家具製造メーカーである認識が一般大衆に広がっていないことである。このため、かつての「100人乗っても大丈夫」のようなインパクトのあるCMを計画中であり、オフィス家具のイナバのブランド化を早急に浸透させようとしており、今後はV字型の業績回復を予想する。
7/12引け値 1370円
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