三菱製紙(東3864) 2001/04/02更新

2001/04/02(月)

三菱製紙(東3864) ☆☆☆

 2002/3
 予想EPS Y15
 予想PER 14x

【投資判断】

紙パルプセクターは円安はデメリット。市況見通しも厳しい。しかし、三菱製紙は、写真印画紙(全売上の20%)の輸出比率高く、またインクジェット用紙(全売上7%)も輸出しており、円安はデメリットとならない。紙パの中で積極的になれる銘柄のひとつである。
 これから大きく伸びるインクジェット用紙(以下IJ用紙)で55%のシェアを誇るものの、証券会社の注目度は低い。バリエーション(時価総額と予想企業収益との比率)は魅力的。
 2002/3 営業利益110億円(大原予想)に対して時価総額が660億円。この比率が6倍程度。PERで13−14倍程度の評価である。PER13倍というのは、益利回りでいえば7〜8%(1÷13)の水準です。(たとえば、1億円あって、7%利回りだと年間700万円ずつ増えるわけ。これが債券で1%の利回りだと年間100万円にしかならない。だから株がいま有利じゃないかなと思います)。
買い。

【リストラ】

今後2年でこうなるという計画です。(会社インタビューをもとに大原予想)
         2000年 → 2002年
連結従業員   約6000人 → 約5000人(固定費は80億円削減)
連結有利子負債 2200億円 → 1400億円(土地含み+保有有価証券を活用)
評価システム  工場単位損益 → 6事業部制
役員数        17名  →  13名

 さて、土地含み益だけで500億円はある。有価証券が500億円程度。あわせて1000億円を借金返済へ回せば、経常収益は改善。EPSに効いてきます。
 すると営業利益≒経常利益、経常利益×(1−実行税率40%)≒純利益となります。
 すると時価総額÷営業利益=6倍→PER10倍と同じ意味でしょ?

 財務リストラを進めようとする決意があるかどうか。今期も中川工場周辺土地売却で200億円程度すでに借金を返したそうです。今後も借金は返していってもらいたい。

【写真印画紙】

写真はジリ貧かもしれない。しかし、円安はメリット。国内ではコダックを組む。販売費や管理費を削減し、黒字化。

【IJ用紙】

R/D投資40億円。280人をインクジェットにつぎ込んでいる。20年間前からIJ用紙を研究している。光沢のある中級用紙以上がメイン。
 現状の売上100億円だが、2年で300億程度まで伸びるはず。国内シェア高いものの、世界シェアは30%程度と推定している。
 生産規模は高砂工場、京都工場、2つのドイツ工場で大きく増やす予定。
 エプソン、キャノンなどのプリンタとの相性は非常に重要。紙とのマッチングなど、スピーディな開発体制がプリンタメーカから評価されている。
 国内3工場、ドイツ2工場における増強投資は終了しており、大きな投資負担は必要ない。利益率は平均的粗利より10%高い。
 アジアやヨーロッパは今後IJが普及していく。そして、日米も着実な伸びだ。ホームプリンタはIJが相当普及するだろう。普及した後は、確実にサプライで儲けがでるはず。

 2年後IJ売上300億円予想(大原予想)で営業利益率15%だから営業利益は45億円。IJ事業の株式価値は、成長性を見込んで営業利益45億の12倍の540億円はあるだろう。
 インクジェット以外の事業を全部あわせると、(リストラ後)400億円程度の事業価値と試算した。適性株価は中長期で300円と試算。短期、240円程度の上昇はあるかもしれない。

【IJ用紙の技術的な説明】

紙をベースにインクジェット記録においてよい印刷特性を得るため、コート層を設けてある。
通常のワープロ用紙、レーザプリンタ用紙のPPC用紙に若干のIJ特性を持たせたものが開発されている。しかし、より高精細のフルカラー用途では、技術的にもかなり挑戦的なことをしている。

 IJのドット直径は数十ミクロンメートル。紙は長さ数ミリ、直径数十ミクロンの繊維が折り重なっている。紙が水を吸うのは、その繊維と繊維との隙間に水が入り込むからである。するとその水分は繊維の長さ方向に進んでいき、それが「にじむ」という現象。
 紙は結構、表面の繊維密度が均一でない。どうしても繊維層が少ないところ、逆に厚いところが出てしまう。こうなると繊維層が薄いところの吸収速度が速くなってしまう。そこにインクが集中してしまう。するとインク濃度が高くなり、色のムラがでてしまう。いい画質が出ない。これらのムラや隙間をインクのドッド径より小さくすると問題は解決できる。

 そのため、コート層を設けている。コート層は、粒子が数十ミクロン以下の顔料を使用し、顔料粒子間の隙間でインクを吸収させる。その上、その顔料を穴だらけに設計して顔料自身の内部にもインクが行き渡るようにしてある。非晶質シリカなどの多孔質顔料を使用する場合が多い。

 ただし。顔料だけだと脆いので、紙からコート層が剥がれ落ちてしまう。そのため、バインダーを併用している。インクはコート層の出来るだけ表面にとどまってほしい。紙のほうに深くもぐってしまうと画像濃度に寄与しない。インクは染料系が多いので、インク染料分子をすばやく捕まえる染料定着剤(カチオン性化合物)をコート層に配合している。光が錯乱すると染料の色濃度が落ちてしまうので、コート層の素材は屈折率も低くするよう設計してある。

 さらに、強い光を当てても、画像が劣化しないように光に強い(耐光性)材料の開発がインク側で進んでいる。また、インクの染料は解けてしまうので、紙に雨などでぬれてしまうと台無しになってしまう。そういう観点からは、インクなどを顔料にする動きもある(→東洋インキや大日本インキが顔料インキを開発)。

 IJ紙側でも、染料定着剤の配合で、雨にぬれてもにじまないIJ用紙は可能となっている。また、耐光性においても、酸化防止剤をコート層に入れることで若干改善できる。原紙側の対応。
 水を吸うと紙は伸びてしまう。これは、セルロース繊維間の水素結合が破壊されるからである。IJ用紙で、インクがのった部分だけが伸びて、インクが付着しない部分はそのままなので、用紙が波を打つ。これは、プリンタの紙つまりを引き起こす。これを防ぐにはインクをすべてコート層で捕らえて、原紙まで到達できないようにする。そうするとコート層の厚さが数十ミクロンと厚くなり、経済的でない。現実的には原紙を改良して対処している。
 界面活性剤や蛍光増白剤、白色調整用染料、pH調整剤、安定剤などの配合はノウハウである。こういう高い濃度高い粘土のコーティングはコーターの生産スピードが遅い。乾燥が大変。

 また、効率よく、コーティングは一度で終わらせたい。複数回コーティングはコストに合わない。コート紙は乾燥時に縮むため内部に空孔ができる。原紙側に空孔が多いとインクが原紙にどっと来てしまう。だから、工程の改善で空孔を適度に減らす努力をしている。

光沢。粒の大きな吸水性顔料のかわりに、粒の小さなコロイド状顔料を用いて表面のつやつやを出している。すると、隙間が小さくなって十分なインクを捕獲できない。だから、吸水性顔料を下にひいている。製法も違う。(キャスト法)

 インクの改善も重要。あまり知られていないが、でも紙だってこんなにがんばっているんですよ。

【特許】

IJ用紙関連の特許250以上。ライセンス収入も得ている。

【リスク】

汎用品がそれでも売上の半分を占める。市況が心配。ただし、一時期に比べれば、大型合併もあって、業界の問題児も少なくなった。安売り、たたきあいも以前に比べてましになった。なんとか、乗り切れるのでは。
 5年前160円/キロだった市況は、2年前130円を割り込み最悪期。その後140円とこのところ堅調にきたが、いま踊り場。
 三菱の場合、100万トンつくっている。1円の市況の振れで利益10億円動く計算に。10円値下がりしたら、収益はゼロになってしまう。そういう心配ってありますね。

 ただし、純資産倍率も0.7倍ですから。市況悪化は折込済みと思っています。IRは円安で輸入品がこないからたぶん大丈夫といっていたなあ。まあ、人気のないセクターで誰も評価しないから、こんなに安いだろうけど。

【ダイヤモンド・ザイ5月号より】

 設備投資が終わっているという安心感もある。証券会社が見落としている点も重要。
 IJについてこんなに聞かれたのは初めてだったと会社はいっている。これも結構うれしいかった。

 ZAIの5月号28ページ(500円)にピーターリンチの7か条が紹介されています。是非購読してください。IJ関連の三菱製紙は、この7か条にぴったりですよ。
 ZAIでは、「この3年間あなたが初めて訪れたアナリストです」(30ページ)といわれてリンチが興奮したとあります。「IJについては億近がはじめて聞いた」と通じるものがあります。(大原)

 

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