松下電産(東6752) 2002/05/21更新
2002/05/14(火) 

松下電産(東6752)
 ☆☆☆


§特別損失で株主に痛みを強いた経営陣

 松下電器産業が発表した2002/3期連結営業損失は▲2118億円と、大幅赤字転落。
リストラ費用は、総額で3429億円を計上し、当期損失は▲4310億円。
期末棚卸資産は、8346億円(前同比20.3%減)と大幅削減。

 まず、たかが1−2万人を早期退職させただけで、BPSが200円以上もぶっ飛ぶ会社には投資しにくいし、心情的に、投資対象から外したい衝動にかられる。
 どうして10000人を退職させると、これだけリストラ損失が出るのか。
 仕組みは、3月にわたしがシリーズで行った「特別損失の研究」で指摘した通り、いたって簡単なロジックである。

 年収に直して、3−4年分に相当する割増退職金を早期退職者に支払うからだ。もちろん、支払うのは株主である。
10000人 x 3000万 = 3000億円の損失。
それでは、10万人が退職したら、松下の時価総額分がなくなってしまう。恐ろしいことだ。

水道哲学が泣いている。リストラをして、いままで守り通した信念を曲げた。競争力がなくなっている。
ローエンドでシェアを奪われている。
そして、目先のコストダウンを迫られて、やむなく、固定費削減。ここまではよい。

 しかし、その損失は、株主負担。これじゃー 経営責任問題ですよ。普通の国なら。
 しかし、日本は労働者の権利がある。一方的な解雇ができない。だから、任意退職にするわけ。そうなると割増退職報酬が必要になるという論理なのかな。

 なんだか、一方的に、負けつづける日本企業の象徴のような存在、それが松下。

§中国に追い上げられる日本とその趨勢を織り込んだ株式市場

 テレビの株式番組や経済報道を見ていると、「中国すごいぞ、日本どうする?」的なものがこのところ目立っている。
証券会社も中国株を取り扱うところが増えて、中国投資は過熱感さえある。

 一方、日本企業のだらしなさは、外人投資家共通の認識になってしまった。

 先日、テンプルトンの大御所、大原さんとディナーをしたときのこと、もちろん、大原さんはファンドマネージャ歴日本一の25年以上のキャリアをお持ちの著名人である。
氏いわく、3月にサンフランシスコで某外資系証券が「テクノロジーセミナー」を開いた。テンプルトンの大原さんはTSMCのセミナーに出席、会場の高級ホテルは200人を超える人で一杯になった。そして、東芝が登場。今度は20人しか出席者がいなかったそうである。そのうち、13人は日本人。そのかなりが日本から同行した東芝の社員や証券会社の人間だったそうである。

 わたしも、このコンテンツが流れているときには、すでに、モントレイで半導体カンファランスに出席していると思うが、100社のユニークな半導体設計会社を招いた盛大な会議には、日本企業はひとつもない。
 CMOSアナログで盛大に盛り上がり、「時代は我らのものだ」と高らかにファブレスの雄たちが吼えまくるだろう。

 中国、台湾、米国の影に隠れてしまった日本企業。

 松下はどうなのか?すでに多くの外人投資家は、松下を投資対象外にしている。
もう、世界では、松下は会社訪問する価値さえない会社になっている。

いま、米国で投資家向けのカンファランスをやれば、多分、松下のネームでは、10人程度しか出席しないだろう。
ハイアールなら200人以上の投資家でごった返すだろう。

ちやほやされる日本にいては、そのギャップに気がつかない。
スローな改革がそれを物語っている。

証券会社は、M/Aなどの投資銀行業務がらみで、会社の機嫌を損ねるようなことはしない。松下への投資判断も甘い。
ちやほやするのは、日本にいる日本人アナリストで、投資銀行業務に関わるものだけである。

ここまで読んで、読者はどう感じますか?

ああ、やはり、だめなんだ…
そう思うでしょうか?

実は、この現状、この状況を見ると、経験のあるアナリストやファンドマネージャは、逆に考える。

株式投資は、経験がものをいう。

これだけ、中国中国とマスコミが騒ぎ立て、これだけ日本がだめだ政府がだめだ、松下はだめだと叩かれている。

投資家向けコンファランスに人は誰もいない。

そういうことをひとつ、ひとつ、確認していくと、経験のあるものならば、誰も、こう思う。

「いけるじゃん!」

これは今、買えるという意味ではない。

松下を注意深く見ていれば、変化の兆しを捉えることが出来、近い将来に投資ができる環境が整う可能性(あくまでも可能性にすぎない)があるということである。

§松下はどうするべきか

投資家が憤慨しないためには、松下はどうしたよいのか?

まず、人員削減を避けることだ。
どうして? 人員削減は株主価値を損なう。BPSでしか投資尺度がない株である。

これだけの売上、これだけの従業員を活かしきれないのならば、BSPは数年ごとに数百円ずつ低下するだろう。いまでさえ、PBRでしか買えない株なのに、機軸となるBPSが年々低下するならば、投資家はどうすればよいのか?

そのBPSを守るには、人員削減を絶対にさせないことだ。

逆に、逆に、投資家はパズルを解かなければならない。
(投資家の仕事はパズルを解くことだ)

逆に逆にさかのぼる。

人員削減を避けるためには、経営者は今何を感じているか?
どうして人員削減をしたのか?
固定費を下げる。
競争力はわずかだが回復する。
円安だ。
競争力はさらに回復している。
莫大な設備投資や研究開発費はどうする?
将来生き残るために必要だと感じるだろうが、過剰投資は慎むだろう。
経営者には恐怖観念がある。中国にかなわない?

逆向きに考えよう。

そう。だからハイエンド、韓国や台湾が出来ない難しい技術に走る。
高付加価値、高機能、高スピード、超小型 など、など…

そして、高付加価値品のわなにはまってしまった…
そう、高付加価値品は高い。高いから数量がでない。
数量が出ない。過剰な設備になる。しかし、高付加価値追求は新しい投資や設備を要する。

パラドックスだ。

逆向きに考える。
逆だ。逆。

答えはひとつしかない。


松下はローエンドで世界を制覇しなければならない!



それが唯一の生き残る道である。
逆向きに考える。
ローエンドでどうしたら勝てるのか?
果たして勝てるのか?
逆向きに− そう、逆向きに


勝てる可能性はある!

付加価値中心路線を堅持するなら、連結従業員の過剰感はまだまだ大きい。
松下は、現状の人的資産を活かしたいなら、すべての家電のローエンドのボリュームゾーンで世界に勝負を挑みつづけるべきだ。


ローエンドから逃げて7兆円の売上が維持できるか!
 「ばかもの!」と幸之助さんなら、怒鳴るだろう…

逆向きにパズルを解こう。戦艦松下が生き残るためには、みみっちい合弁工場を中国でごちゃごちゃ建設するのではなくて、まず、しっかりとした統一的な意思を示すことだ。

奥の手がある。船井電機に頭を下げて、モノの作り方を一から教えてもらいなさい。

グループ会社を統合する方向性はまったくナンセンス。逆にスピンアウトさせて、船井なみの適正の会社を20−30作ったほうがましだろう。
R/Dはテーマだけは一流だが実践できないものが多い。
特許は下手な鉄砲数打てば当たる。ところが当たらない。
もう現場は、経営者の言うことを無視しなさい。
目先のコストダウンに走るのを止めるべき。


安い基盤で貧相な設計を繰り返すのはやめようよ


世界最高水準の機器設計力が泣いている。
崇高な思想を実現するために、誰もが出来ないことを短期間にやり遂げようではないか!

それが復活の序曲になる。

一度リセットし、最高レベルの基盤を標準採用し、世界に羽ばたいているファブレス企業と共同で、複合機能を統合し、ワンチップ化にまい進しよう。

半導体ワンチップとは、複雑きわまるデジタルデータ処理と質を保証しなければならないアナログ処理を別々の半導体で設計するのではなく、当初からワンチップ化してしまうことである。なにがなんでもやるしかない。自分で出来なければ、世界中のファブレスをバカにしないで、訪問して、協力を仰ぐことだ。

ワンチップになる。4つのチップをひとつにまとめれば、5000円の原価が2000円以下になるだろう。実装面積も小さくなる。アセンブル工程の歩留まりや検査の手間隙がいらない。

なによりも、シェアだ。「特別損失の研究」で指摘したが、市場占有率を取らずして、差別化はできない。高いシェア、それ自身が差別化なのだ。
7兆円の売上が稼動を求めている。稼動を取りにいけ! 稼働率が上がれば、利益は莫大になるだろう。現状の7000億円の営業利益も夢ではないのだぞ…


そのためには、ローエンドの統一的な設計思想が欠かせない
 − 逆向きのパズルは解けた

投資パズルは終わった。あとは、松下がやるだけである。

逆向きに時代が回りはじめる。

松下はいつのまにか 偉くなったのか?
 ソケットを開発したときの企業家根性は跡形も無いのか。
幸之助をささえた全国のショップの親父たちは泣いているぞ。
まだ、水道哲学を守る気があるのであれば、船井電機に頭を下げて、モノ作りを一から教えてもらうことから始めよう。


謙虚に学び、頭を下げよ!  逆向きに 行動する


なんのための研究開発なのか? 勝つための開発か、道楽のための開発か?


ローエンド品へ挑む松下


その雄雄しい姿を見たとき、世界は逆向きに回り始め、世界の技術者が松下詣でをすることになるだろう。

そのとき、はじめて、松下は「雇用を守った」という栄誉を与えられるだろう。


安全、規格、耐用年数、いろいろ気にしすぎないこと。細かい点は無視し、捨てるべきものは捨てよう。

とにかく勝て! ローエンドこそ、松下魂。

勝つんだ 松下!
(ローエンドの統一的な設計思想が出るまでは投資対象外)

(大原)

 

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