アイワ(東6761) 2001/06/28更新

2001/06/28(木)

アイワ(東6761) ☆☆☆☆☆

 「自らの存在意義をかけた戦い−復活への挑戦」

 ※ 1年後の目標株価 1200円 「自信をもって買い」

【加工組み立てメーカー】

 セットメーカーは、テレビやオーディオなどの最終製品を製造し、ブランドをつけて販売する。多くのキーデバイスを外部もしくは社内から調達し、自らが加工組み立てを行う。そのため、加工組み立て型の産業の代表的なものとして見られがちで、アナリストからの評価は、「どの程度、売れ筋商品を保有しているのか」「いかに製造工程で付加価値があげることができるのか」という点に偏りやすい。

 付加価値。多くを外部調達に頼る加工組み立て産業の場合、最終製品の価格水準と価格動向が付加価値額を左右する。
 ソニーとパナソニックとの差、ソニーとアイワの差が、店頭製品の価格差となって現れる。その論理に従えば、「ブランド・イメージ」こそが、株価を説明する最良の道具ということになる。さて、現状、証券会社所属のアナリストたちの株価格付けは以下の通り。

アイワ 買い 0人、中立 8人、売り5人。
ソニー 買い20人、中立 9人、売り0人。
松下  買い 6人、中立13人、売り0人。

証券会社の論理では、アイワは600円でも売るべきで、ソニーは8000円でも買うべきということになる。だから、今後の株式市場の反応もある程度予想できる。

EMSが注目されている。生産性の高い加工組み立て工場を保有することが付加価値の源泉として、大きく注目されている。
一方、EMSへ発注するブランド側、つまり、セットメーカーは、一部の高級ブランド以外は、見向きもされない。それが、アイワを推奨するアナリストがゼロという厳しい現実となっている。
セットメーカーというよりは、機能部材に強い、三洋やシャープがより高く評価されている。

投資家もやはり、キーデバイスの供給元である電子部品をより評価する傾向にある。ソニー以外のセットメーカーの苦境はまだまだ続きそうだ。

しかし、上記の論理は大きな間違いを含んでいる。そもそもセットメーカーとはなんなのか?
 投資家として、もう一度、その定義を抑えておきたい。わたしは、絶えず、少数派だったし、これからもそうだろう。

【だれがラジカセを発明したのか?】

 わたしの小学生時代、熱狂的なプロ野球中日ドラゴンズファンだった。「東海ラジオガッツナイター」を毎晩のように聞きかじっていた。
 わたしの仕事は、夜遅く帰宅する父のため、毎晩のナイターを録音する係だった。中日のチャンスになる。ラジオのボリュームを上げる、カセットテープレコーダをラジオの前に持ってくる。そして、カウンターをゼロにセットし、マイクから音を拾い録音を開始する。チャンスを逃すと、テープを巻き戻す。チャンスに打つと録音をセーブする。そうして、名場面ばかりが30分テープ1本に見事に編集録音される。父は、そのテープを帰宅してから聞くのが好きだった。(こういう面倒な編集をやっていると、打率が低い割にチャンスに打てる選手が好きなる。特に、島谷選手が好きだった)

 そのころ、テープはカセット化されてはいたものの、録音と再生機能しかなく、ラインインとラインアウトも高価で大きなコネクターがついているケーブルが必要だった。

 高校に入るころ、初めて、「ラジカセ」というものが出てきた。ラジオから好きな曲を録音できるばかりではなく、音質も損なわれることなく、しかも、持ち運びができるという信じられないものだった。ヒットにヒットを重ねたラジカセは、どんどん小型になり、どんどん安くなっていった。
高校のころ、バンド活動をしていたわたしは、自分たちのライブをスタジオに持ち込み、ラジカセで録音したものだった。そのころのテープがまだ自宅に残っている。

そして、このラジカセは人々のライフスタイルを変えた。
浜辺では、ラジカセを持ち込み、好きな音楽をかけているグループが生まれた。
たけのこ族というわけのわからないダンス集団も勃発した。
大学のころ、一人住まいの貧乏学生になったとき、とても高価なステレオを買う余裕などなく、唯一、ラジカセが、わたしの情報源だった。
ラジカセはそういう一人暮らしの若者を支える貴重な発明となった。

ラジカセは、アイワが発明したものだ。
セットメーカーとは、そういうもの。その存在意義は、創造。EMSには決して出来ない。電子部品の会社には決して出来ない。セットメーカーだけの聖域があるとすれば、それは創造である。だれが需要を喚起するのか? 政府なのか? それとも部品メーカーなのか? EMSなのか? そのいずれでもない。需要を作り出すことができるのはセットメーカーだけである。

われわれがこの長い不況から脱却できるかどうかは、セットメーカーの力量にかかっている。それが創造の力だ。それがセットメーカーの底力だ。それがセットメーカーであるアイワの存在意義だ。

【逆境を越えてきた会社 80年代のアイワ】

 1951年設立のアイワ。1959年ソニーから第三者割り当てを受け、子会社となった。しかし、アイワブランドは損なわれることがなかった。
1959年以来、経営陣はソニーから派遣されてきた。今回の業績悪化をもたらしたのも、ソニーから派遣された人々だったし、90年代後半、アイワが光輝いていたとき、その礎を築いたのも、ソニーから来た経営者だった。

80年代半ば、大変な苦境を経験する。まだ売上が600億円程度のとき、100億円近くの赤字を出した。急激な円高、ベータを採用しビデオの標準規格戦争に敗れたこと、カムコーダ開発など開発の手を広げすぎたことが主因だった。

ソニーから最強の助っ人がやってきた。トリニトロンを開発した吉田氏が社長となった。ソニーアメリカの生みの親と言われた卯木氏が招聘された。アイワは手を打った。ポータブルなAV商品へ経営資源を集中した。

その後、ヘッドフォンステレオやカードタイプのラジオでは、大きくシェアを伸ばした。(現状で、この2つの製品を供給しているのは、アイワと松下とソニーだけとなっている。むろん、利益率は高い)

一方で、生産拠点を海外へ移管。アジアで有力なOEM先を探しては製造を委託していった。そして、見事にアイワは立ち直った。

【創造的破壊 90年代のアイワ】

 90年代、アイワはセットメーカーの存在意義である市場の創造を見事に果たした。ポータブル製品で成功したアイワは、据え置き型のホームオーディオに開発陣営をシフトした。
それまで、応接間に置くオーディオは、20−30万円もする高価なものだった。アイワはがんばった。投入製品の価格は9万8000円だった。いまでいう1000ドルPCに匹敵する(つまり、デルコンピュータに匹敵する)市場を創設した。

市場は活性化した。
これまで、据え置き型のオーディオはマニアや高額所得者のためのものだった。アイワはその呪縛を解いた。需要は喚起された。
一方で、多くの企業が市場から退出した。80年代、まだ、東芝はオーレックスというブランドで「ウオークマン」を作っていた。三菱はダイヤトーン、日立はローディというブランドで、AV機器を作っていた。山水、赤井、富士通、NEC、こうした企業が脱落していった。

革命的製品は、市場を創出する一方、競争力を失った企業は市場から追いやる。これを、創造的破壊という。アイワは創造的破壊企業の元祖だった。当初2%に過ぎなかったアイワのシェアは25%にまでなった。

【研究され、競争力を失ったアイワ】

 多くの日本企業がOEM先をアジアに見出した。アイワの海外戦略は研究され、真似された。一方で、アジアの協力工場は次第に力をつけていった。中には、独自のブランドを構築し、あからさまに競合者となったものもあった。付加価値の多くは、こうした製造工程に消えていった。

アイワは、まだ、気が付かなかった。マイナーなモデルチェンジを繰り返し、気が付くと、開発陣は、頻繁なモデルチェンジに振り回されるだけの毎日を送るはめになっていた。モデルが増えれば増えるほど、儲からなくなる。開発がおろそかになる。製造コストはかさむ。
ビジネスモデルは、ボリュームゾーンを狙った大量生産大量販売を志向している。しかし、実際の事業は、多品種少量の遠隔地への船便販売。そして破綻する。

2001年3月期。390億円の赤字。3月下旬には、社員10000人を半減するという空前のリストラ案が発表された。株主に出資を求める有償増資の発表。株価は600円を割り込んだ。時価総額400億円は、ソニーの売上の1%にも遠く及ばない。アイワは再び大苦境に陥った。

【苦境をばねに全員参加型の経営者がやってきた 森本社長の登場】

 ソニーからまた強力な助っ人がやってきた。ソニーで「生産のプロ」として知られている大曽根氏が会長になった。大曽根氏はウオークマンの育ての親でもある。
そして、森本氏。ソニーの海外オペレーションを統括し、さらに、IRでソニーの顔となっていた。新社長となった。

森本氏は、社長室に初めて入ったとき、いきなり戸惑った。「おい、どうして社長室にパソコンがないんだ?」

森本社長は、すぐに自らのホームページを開設。それから嵐のように、社員一人一人にメールを送りつづけている。海外社員へも。国内の社員へも。
「アイワはどうあるべきなのか?」、「存在理由をみんなで考えよう」、「なにをしなければならないのだろうか?」。

不採算部門のモデルチェンジを凍結。今期中に、据え置きオーディオの売上を200億円削減、ラジカセを100億円、テレビを100億円、その他部門を100億円、合計500億円の売上を削減する予定だ。
不採算部門を切るということは、利益率を向上させるだけではなく、アイワのもつ開発力やマーケティング力を温存し、それをある一点に集中し、セットメーカーとしての原点である創造的破壊を行うためである。ねらいは、開発陣を頻繁なマイナーモデルチェンジから解放すること。

【そして開発陣はひとつになった 神田テクロノジーセンター】

 浦和と宇都宮。アイワの開発センターはこの2つの拠点だった。小さな組織のよさは、風通しのよい組織。オーディオ部門と映像部門との垣根はあってはならない。しかし、開発は別々に行われていた。意思の疎通は失われていた。アイワは大企業病にかかっていた。

垣根を取り払う。2001年5月、神田に新しい開発センターが新設された。2つの拠点は文字通りひとつになった。神田。秋葉原という電気街に近いため、最新動向を技術陣が今まで以上に意識しはじめた。開発、営業、本社の3社間の物理的距離が近くなった。もちろん、組織の壁は取り払われている。技術者はいう。「コミュニケーションはものすごくよくなった」。

【VAIOをデザインした男がやってきた 河野 壮美】

 ソニーの大ヒット商品、VAIOをデザインした河野氏がアイワに加わり、社内の議論はより活性化された。
「勝ち抜いたメーカーのみに次のトレンドを提案する権利が与えられる。まず、われわれは市場の勝利者になる必要がある」(河野氏)
「実は、わたしもアイワにくる前、アイワのデザインに散々やられたことがある。アイワが市場の勝利者となるとアイワのデザインがトレンドとなる。そうなると他社のデザインはどんなに斬新なものでも「トレンドをつかんでいない」という評価になる」(河野)
「わたしにとってデザインとは、技術とユーザーをインターフェイスすること」(河野)。

森本社長はいう。
「アイワの伝統を生かして、映像とオーディオを融合させる。」

この秋、アイワの総力をあげて、新製品が投入される。

【なにごともないかのように、静かに50周年の記念日は過ぎ去った】

 10年前、アイワは躍進のスタートを切った。1991年6月20日。アイワの従業員とその家族は東京ディズニーランドで盛大に40周年記念を祝っていた。
そして、2001年6月20日。沈黙のうちにアイワの50周年記念は過ぎていった。なんの記念行事もないまま、この会社は50年の節目を迎えた。社長室からは、社員あてにメールが送られつづけていた。「みんなでわれわれの存在意義を考えよう」と。

神田の新テクロノジーセンターの入り口のロビーには、高さ3〜4メートルのきれいな木目のメッセージボードが立っている。そのボード上にアイワの新しいキーワードとなる白い文字盤が光っている。”We are changing!”

今日、新しい和文アニュアルレポートが受け取った。
その表紙には、やはり、白い文字で”We are changing!”とかかれている。

”CHANGE”。
 この言葉、この決意だけがアイワの歴史を正当に評価し、その50周年を静かに彩っている。アイワは必ず復活する。

【あとがき 車はクラウンだけじゃない】

 クラウンやマークII。いろいろなブランドがあるから世の中は成り立つ。ソニーブランドだけでは、世の中成り立たない。アンチ・ソニーだってたくさんいる。ソニーブランドではどうしても取り込めない層がある。

90年代にアイワが市場を獲得したとき、もちろん、ソニーのシェアは低下した。しかし、それ以上に、松下やパイオニアのシェアを取った。アイワがソニーグループにもたらした功績は計り知れない。

ソニーが毎年5%成長しようとするなら、売上7兆の5%だから、毎年3000億円の市場を創出しなければならない。ソニーは、毎年、アイワ規模の売上2000−3000億円の会社をひとつずつ作っていく必要がある。これはしんどい。

アイワは、メモリーカードや無線LANの技術が枯れたときに、それらを融合することで新しい市場を創造できるだろう。成長率は計り知れない。

兼松を書いたとき、一番後悔したことは、200円のタイミングで書いたということでした。あと半年早く書くことができなかった自分を悔いた。だから、今回のアイワでは、スタートに遅れないように、がんばりました。わたしたちは、最初からこのリストラ案に付き合っていたと、一年後に堂々と主張できるように。

足元は厳しい。これは、在庫500億円をさばかなければならないからです。だから、中間決算は目も当てられないでしょう。証券会社のアナリストは、だからだめだという。しかし、後半戦、第3四半期には、月次決算で黒字になる月も出てくる可能性だってある。

単月黒字というのは、株価にインパクトを与えます。だから、このレポートの最初に1年後とあるけれども、わたしは株主はもっと早く報われると信じています。(大原)

 

2001/04/26(木)

アイワ(東6761) ☆☆☆

 新株発行計画が明らかになった。5月25日時点での株式保有者に対して、現状1株につき新株1株を与える。権利は5月25日時点の株主に与えられる。申し込み期間は7月3日から7月12日、払込金額は、一株530円である。
株式数が倍増する。無償ではなく、有償増資である。新株を全員が申し込めば、発行済み株式数は6611万株が増資後1億3210万株になる。

 今回の抜本的なリストラ策によって、アイワの長期的な収益力は回復する見通しだ。
2年で営業利益で200億円程度まで回復するだろうと見ている。その場合、時価総額は2000億円程度が目安と見ている。

まず、人員の半減によるコスト削減効果、不採算製品からの撤退による粗利率の向上、研究開発の絞込みによる全社をあげての新製品開発が期待できる。そのために必要な原資が今回の増資で集められる330億円だ。

株価は増資後 2年程度のスパンで徐々に回復し、時価総額2000億円の株価1500円にまで戻ろう。
既存株主は、ここであきらめて見切り売りをするよりは、是非増資を引き受けて、アイワを応援してもらいたい。
株主でない方は、5月後半、株価が700−800円レベルまで落ちていれば、是非買って、なおかつ増資に応じてほしい。そうすれば、平均コストは600円台まで下がる。

今回の増資は、任意である。必ず増資に応じるのはソニーである。5月25日時点の株主は、株価が500−600円前後であれば、大半は応じないだろう。ソニー以外の大半が応じなければ、発行済み株式数は、1億株程度となる。その場合、現状時価総額710億円を前提にすると株価は700円。ということは、株価の下値目処は700円ともいえる。
700円以下なら、増資に応じない人も多い。
700円以上なら、増資に応じることで有利に買いコストを下げることができる。
仮に800円で購入できれば、増資530円で平均コストは650円。これは今日の高値1295円時点の時価総額850億円と同じだ。
下値目処はしれている。これから買うチャンスが増えた分、注目度も上がるだろう。

発行価格の530円という価格は、時価総額換算で700億円である。しかし、530円までは下がらない。

この増資計画は、株主への痛みを伴う方法である。
わたしは、ソニーへの第三者割当を予想していた。だから、ニュースを聞いて、意外な印象をもった。
既存の株主にとって厳しい内容かもしれない。しかし、ソニーの本気さ、アイワのリストラのすさまじさを考えるなら、将来の利益回復は信じざるを得ない。株主は冷静な対応を期待したい。

アイワ表1:今後 2年間の株価の目安
時価総額
株価
必要営業利益
達成可能性
1000億円
750円
100億円
99%
1500億円
1130円
150億円
80%
2000億円
1500円
200億円
50%
2500億円
1880円
250億円
20%
3000億円
2255円
250―300億円
5%

表1は、リストラによって期待ができる営業利益とその営業利益を達成した場合の時価総額の目安、そしてその可能性をまとめたものである。
下値は20%程度、上値は倍程度の可能性があると見ている。実際に力強く評価されるのは、まだ先かもしれない。アイワにがんばってもらいたい。復活を強く願っている。

先日のコメントでアイワを紹介した。そのとき、2年程度の長期戦と断わった。苦楽を共にする覚悟のある方は参加してほしいといった。
長い復活への戦いが始まった。製品を世に問えるだけの気概をもって社員はがんばってほしい。
行き過ぎたリストラで、マツダのように沈んでしまうのか、兼松のように復活を果たすのか。

予断を許さない。(大原)

 

2001/04/04(水)

アイワ(東6761) ☆☆☆

 2年以上の長期戦覚悟である。

 流れはリストラ関連銘柄。だから短期でそこそこの株価は期待できるかもしれない。しかし、ソニーによって「解体」されつつある今、ここから株主になるのは、長くつらいトンネルが恐らく待ち受けているだろう。それでも、アイワと苦楽を共にする覚悟のある投資家はいると信じる。わたしもその1人だからだ。

 衝撃的なリストラ計画が発表された。
 これから起こるのは、人員削減の嵐だ。連結1万人社員を半分にする荒治療だ。3つの工場のうち、残るのは1つだけだ。連結3000億円の売上を2000億円まで落とし、収益力を回復するという。

 わかっているのはこれだけである。くわしくは今月下旬の決算説明会で明らかになるという。

 さて、このリストラ計画を額面通り信じ、コスト面のメリットをあげれば、
1)人員削減
 給料支払いの減少がおよそ120億円(大原試算)
2)工場操業停止
 有形固定資産減少からくる減価償却費などの削減効果が40億円(大原試算)
3)外注コスト
 外注への切り替えによるコスト減少が30億円
4)不採算製品の切り捨てによる粗利益率の上昇
 不採算事業の切り捨て効果50億円(大原試算)
5)その他商品開発の絞り込みによるコスト削減など10億円

ざっと250億円の営業利益の改善効果が期待できる内容である。円安などの外部環境の好転などが加われば、2年後営業利益200億円も実現できるはず。その10倍が適正時価総額とすると時価総額は2000億円。現状の3倍以上である。株価は3000円だ。

 ところが、証券会社の評価はいまひとつ。縮小均衡後の戦略がないという。殆どのアナリストが売りのスタンスのままであり、「売り」から「保有」に引き上げたところもあるが、「買い」は一社もないようだ。そう、アイワはソニーによって解体され、もう、どうなるのかわからないというのである。

 たしかに、アイワの潜在能力は乏しい。最近の出願特許を500件見てみた。これは経営者が悪い。完全に逃げている。特許はどれも、ひどくありきたりで、独創的なものは何ひとつない。これほど、シビアなオーディオ市場にあって、ポストカセット、ポストVTRのような基本的な戦略でさえない。
 特許からは、加湿器や空気清浄器のような、アイワにとっては新しいかもしれないが、オーディオ以上に厳しい市場への逃避が見て取れる。気持ちですでに負けているのだ。

 そういう意味で、アイワは長期戦なのである。それはアイワに魂を再度吹き込めるかどうかの挑戦であり、アイワ社員1人1人の気概にかかってくるからである。非常に心もとない状態での、この唖然とするようなリストラの嵐なのだ。

 このリストラは、株主から見れば、十分すぎるほど十分なものだ。これを失敗させたら、どんなことになろう。いきすぎた株主重視の姿勢が企業を破綻させたと非難されるであろう。それは、手ぬるい経営への回帰となってしまうかもしれない。だから、日本株へ投資するものならば、なんとしても、アイワに復活してもらわなければ困る、そんな意味合いがあるのである。

 とにかく、利益をだしてほしい。今の段階でアイワにそれ以上望むのは酷である。社員一丸となって、なんとか利益を出せるまでになってほしい。それだけで、株価は持ち直し、アイワ復活の序曲を奏でることは可能だ。

 株式投資は、強いものが勝つとは限らない。戦力が強いものが、よいパフォーマンスをあげるとは限らない。市場というものは、心の通った人間と人間の対話の場所である。だから、日の目を見ない影で努力した人間が、いつかは評価されるようなところである。市場のよいところは、人気があるものを高く評価するところである。それは、逆にいえば、無名であっても実力のあるものが評価されないところである。しかし、本当の投資家は、名前でなく、実力で選ぶに決まっている。だから、誰も買わない銘柄を買うことになる。名前がなく実力がある銘柄は割安であり、だから投資しようという気持ちになる。

 名前がないから応援しがいもある。そういう実力者が徐々に評価されて一流になっていく。それが世の中ではないのか? 世の中絶対報われるようになっている。人類が何千年も歴史を重ねてこれたのは、世の中がおおむね 個人個人の実力を正当に評価してきたからであろう。

 投資家の中には、サラリーマンファンドマネージャもいる。みんなが持っている銘柄を持ちたがる人たちである。そして、投資家の中には、トヨタやソニーを保有することがステータスであるように思っている人もいる。過去何十年、生保の運用が一向によくならないのは、そういうことなんだろう。

 株は、セリーグの優勝を予想するようなものじゃない。戦力的には巨人が強いに決まっている。そうではなくて、市場は、巨人は年間何勝するのかを指標で示しているようなとことである。阪神ならどの程度の勝数になるのか、すでにおおまかな予想をしている。それが市場である。

 アナリストは「巨人は強い」といって薦めるが、投資家にすれば、すでに高い期待がある巨人がたとえ優勝してもあまり儲けられない。逆に優勝しても損することもある。馬を当てればよい賭け事とは違う。業績をあてても株価は下がることがある。

 いま、阪神状態の企業がたくさんある。アナリストは、阪神が年間50勝は出来ないと思っている。PER10倍というのは、年間50勝程度の圧倒的な最下位予想です。年間140試合のうち、55勝してくれれば大儲けという銘柄がある。3連戦でたまに勝ち越すだけで上がるような株がいっぱいある。

 古河は3000円のとき、アナリスト10人が10人とも「買い」と主張した。ソフトバンクも光通信もみんな「買い」といっていた。株式投資には、必ず努力賞というものがある。

 努力した経営者や社員には正当な評価が約束されている。結局、すさまじい改革をやろうとする企業が市場から評価されないで、無能な経営者の会社と同等な評価しか受けないんだったら、市場は存在する意味がない。わたしたち、ファンドマネージャやアナリストがいる必要はない。わたしたちは、社会的に無能ということになる。

 兼松やアイワの改革が株価の評価を受けないで失敗したら、企業は「市場の助けを借りて」再生することはできないということになるんじゃないか。市場の一番すばらしい点は、市場は冷酷のように見えるけど、しっかりやってくれる経営者をほっとかないという点ではないのか。だから、仮に兼松やアイワの株が上がらなかったら、日本の市場は終わりのような気がする。日本企業の再生もまた難しいと思う。

 マスコミは、なにも手を打たない経営者はなにもしないといって批判する。一方で、リストラをする経営者を解体屋といって批判する。彼らがもちあげるのは、成功した企業だけ。マスコミは人気ものを追いかけるが、投資家は無名の実力者を発掘する。

 だめな経営者は、「解体しなくても景気が回復すれば生き残れる」というんです。株価が下がらなければ倒産しなかったのにと破綻した企業はいいわけします(野球でまけていて、次の回に満塁ホームランが出れば勝てるという)。

 お金はほっとけば必ず増えるようにできています。だって金利がつくんだから。お金が減るということはありえない現象なんです。マクロでは。
 お金をどんどん減らしているということがいかに異常なことであるか、そういう認識がないんです。経営者は。

 儲けることが悪いことだと思っている人もいる。だから、儲かっている企業には、すぐ値下げしろという。「値下げしなさい。儲けているでしょ?」という。儲けるためにどんなに努力をしているのかわかっていない。努力の対価という発想がない。運だという。
 だいたい自分が独立しようとして、大いに損することがわかっている事業を始めますか??

 損している事業を温存して、過去の損をかくして、あげくに、「儲かっている事業だってある」と自慢するんです。

 アイワは、アジア企業の台頭によって、みずからの優位性が見出せなくなった。だから、商品開発は2つぐらいに絞って、まず、競争力のあるものを世に問う必要がある。いま、アイデンティティがない。だからアイディンティティを取り戻すためには、一度、すべてを失った方がいい。

 ものごとは、最初から作り直したほうが、だめなものをいじるより、時間もかからない。そういうプロセスをわかっていながら、先が見えないからといって、アイワを売りだとしている証券アナリストは、極端な人間不信ではないのか。経営者のみなさん、将来がわからなければ、市場と相談すればよいんです。

 わたしはソニーでさえ、バラバラで商品開発のあり方が散漫だと思っている。いったい、次期記録媒体として、光から半導体から磁気をいろんな部所でやっている。どれが将来の主流になるのかわからないからだという。負けることをあんなに恐れている会社もありません。

 アイワは、ソニーの官僚主義を変えるぐらいの気概でやってほしいと思って、アイワを応援することにした。

 「ソニーを見返してやる」というアイワの社員にがんばってもらいたい。この計画で、社員は厳しくつらい思いをするであろう。彼らが1人でも精神的に強くたくましくなればいいなあと思います。
 給料もカットされるでしょうし、転職できない人もいるでしょう。社員もつらいだろう。でも、株主は、悪い世の中になれば、株価が下がって、大切なお金を失ってしまう。

 あっと驚くコンセプトの商品を世に出してほしい。それが2年でできるか。長期戦は始まったばかりだ。長期で、がんばれる投資家は、応援してください。

(リストラ悪説への反論。マクロ的にみて、リストラは大変なことです。失業率は改善しないでしょう。若者も就職が大変になる。でも、それを競争力のないひとつひとつの企業に押し付けるべきじゃない。競争力のある企業へ人材が流れていける仕組みをつくるべきです。日本への企業誘致がすすまないのは、規制がありすぎて、税金が高いからでしょう?また、本当に人手の足りない分野(弁護士や弁理士、介護、医者、教育)があまりにも非効率でそれぞれの業界がかたくなに供給をしぶっているからでしょう? )(大原)

 

あくまで投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり内容を保証したわけではありません。
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