三洋電機(東6764) ☆☆☆
【有機EL事業の評価】
- 三洋は有機ELディスプレイの本命の一つ。コダック、日本真空技術との共同開発体制は強力。
- 三洋は、低温ポリシリコンTFT事業を有す。低ポリは、有機ELに不可欠。パッシブのように、無理に電流を流さなくてもよく、ELの寿命を伸ばし、消費電力を押さえる。また、機械的な強度も向上する。半減期は白色点灯時にすでに1万時間を超え、消費電力は200cd/m2時で400〜450mW(2.5インチパネル)を達成している。明るさも問題の赤色で昨年の1cd/Aから今年は2.5cd/Aまで大きく改善し、量産に目処をつけた。
- 低温ポリシリコンTFT基盤の歩留まりは問題ない。大方の予想どおり、すでにトップゲートを採用し、量産に入っている模様。残る問題は、TFT基盤と有機EL膜の相性とフルカラーにおける蒸着マスクのタクト。
- 低温ポリになることで、低電流駆動という独特のドライバーICも、パッシブほど無理をしなくてもよい。ドライバのスペックが、かえって楽になり、パッシブでコストの大きな部分を占めていたドライバのコストはかなり削減できる。もちろん、ドライバーにとどまらず、D/Aコンバータなども基盤上につくりこむとみる。後工程は検査と反射防止膜貼り付けだけになる可能性もある。
- 蒸着プロセスは、真空技術との開発だが、どれだけ出来るかは、まだ未知数。当初数ヶ月は苦労すると見たほうがよい。
- コダックと組む決断は、現時点では正解だったろう。低分子素子のほうが、扱いやすいし、実用可能なフルカラーがそろっている。また、単なる推測だが、唯一量産を手がけているパイオニアもコダックとクロスライセンスをふっている。三洋は特許上、コダックの許可があれば、パイオニアの製造特許を使用できる可能性も否定できない。だたし、ここで材料メーカを絞り込んでしまった。三洋は、実質上、高分子ELへの展開は捨てたと見たほうがよい。
- 高分子は非常に敏感で制御しにくい。エプソンはそのためデジタル階調方式を採用した。低電圧下、しかも、定電流制御という難しさに加えて、素子の効率が「よすぎる」ため、余分な制御コストがかかる。そのため、駆動回路、周辺回路などを含めたトータルなディスプレイのコストは、当面、低分子が優位にたつだろう。
- 2001年のパッシブ量産は、エリアカラーで蒸着プロセスを確立する目的。2002年からのアクティブは、少量を自社製品で試す程度になる可能性もある。しかし、現時点で、すべての携帯メーカがフルカラーELを要求している点は見逃せない。明らかに製品の差別化になりえるからだ。
- 競合状況、低ポリ基盤事業を持つという観点からは、東芝が最大のライバル。また、エプソンは、低ポリ量産の実績はないものの、独特の製造プロセスに加えて低ポリの特性をよく理解している点で強力。しかし、東芝とエプソンは高分子陣営。S−Tもダークホースだ。三洋にとっては、東芝、エプソンが高分子でいくうちに、量産実績をあげたいところ。外野からみれば、パイオニアと東芝が手を組めば、一気に本命となると見るが、両者の利害関係の整理が難しく、将来、どのような勢力図になるかまったく不明。
- パイオニアは、真空技術ではなく、トッキを選び、低ポリノウハウでは、三洋と特許紛争で対立する半導体エネルギー研究所と手を組んだ。これは、三洋陣営からの離脱とも見える。パイオニアは量産実績を武器に東芝(またはソニー)と合弁会社を設立せざるを得ないのではないか。交渉次第では、パイオニア側に相当の資金負担が生じてもおかしくはない。設備投資が勢力を決める時期に入った。
- 将来の携帯ディスプレイ市場の15%程度を押さえるならば、三洋有機ELの事業価値は7000億円程度と評価。低ポリやEL蒸着の技術的難易度から判断すれば、利益率2桁は当然。しかしながら、相当の設備投資負担も伴う。
- 中型ディスプレイでは、液晶の壁は高い。小型においても、静止画アプリケーションなら、ELは不利。
- 液晶においても、カーボンナノテューブを陰極に用いたバックライトが登場する公算が大きい。高輝度に加えて、パルス応答性が高いからだ。冷陰極管に代わる光源の大幅な特性の改善があれば、FS方式(この場合はLEDではない)も中型以上のディスプレイで採用される可能性もある。液晶に残っているのは長らく大きな改善のなかった光源の開発であろう。むろん、偏光膜厚を数年で半分程度にするなど、部材側の努力は続いている。また、部材スペックの標準化も進む。一般的に、対抗する製品(EL)が現れ、存亡の危機に立ったとき、既存の産業はとてつもない底力を見せる。シャープなどは、光源のあり方を徹底的に議論すべきではないだろうか。液晶は光源次第で局面を打開できるだろう。小型パネルでは有機EL有利とみるが、中型大型ディスプレイにおいては、本命不在の状況であるのは間違いない。(大原)
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