スミダコーポレーション(東6817) 2000/08/08更新

2000/08/08(火) 

スミダコーポレーション(東6817) ☆☆☆

 先達て大原部長、そして私がご紹介したスミダコーポレーションが(スミダ電機から名称変更)上方修正を行った。明日8月9日午後から説明会があるのでその報告は後日させて頂くが、その前に再度会社訪問取材を行なった。しかし今回の取材は、通常のアナリストが行なう内容とは全く違い、数字面など業績に関しては一切ヒアリングせず、技術・特許戦略についてのみヒアリングを実施し、会社の無形固定資産を如何に評価し、将来の株価を予想するかに焦点を絞った。面談相手はエンジニアと特許担当のエンジニア、そしてIR担当者の3名である。

 コイルを製造している会社は、インターネットを見ればわかるが結構ある。その中で同社はコイル専業として飛躍し、トップクラスに位置している(専業ではトップ)。コイルではなんと言っても東光が有名だが、その差も縮小傾向にあり、同社の努力が覗える。同社の強みは一体どこにあるのだろうか?
 東光はシグナル系、同社はパワー系に強みと一般的に言われているが、実際はどうなのであろうか? ヒアリングした。

 オーナーは、創業初期からどんなに少ロットでも顧客の要望に応えるをモットーにしており、これを長いことやってきたことが信頼に結びついているということがある。

 では技術面においてはどうであろうか?
 まず、モノを作るということは大別して基礎研究、開発研究、応用研究の3つに別れるが、同社は応用研究型企業であり、この応用をうまく使いこなし成長を見せてきた。
 では基礎研究をしてこなかったかといえば、そうでもない。同社はコイルを作るに当たって素材はフェライトに注力し、TDKと長年、共存共栄の関係なのである。同社のニーズをTDK側に要請し、TDKはそれに応える。TDKからスミダ側に渡るフェライトは、TDKのカタログに掲載されていない、スミダスペシャルフェライトも存在している具合である。

 現在、TDK以外の日立金属、日セラなどフェライトメーカーからも仕入れを行なっているものの、こうした関係が現在のポジションに繋がった面が大きい。
 では、なぜフェライトがスミダスペシャルなのであろうか?ただの磁石では駄目なのか?エネルギー効率なんていう言葉がある位なのだから、住友特金の強力磁石であるネオマックスはなぜ使わないのか?

 周波数という言葉をご存知だと思うが、家庭用電源なら関東が50ヘルツ、関西60ヘルツ、AMラジオなら522から1620キロヘルツ、FM放送なら76から92メガヘルツというように、波(電磁波)のサイクルが1秒間に何回変化しているかを表わすものだ。
 交流家庭用電源で50ヘルツなら、1秒間にプラス・マイナスが50回入れ替わっており、この周波数の違いにより、言い方を変えれば使用目的に合わせコイルを選ぶのだ。
 つまり、周波数によりフェライトの成分を微妙に変化させ、色々なインダクタンスやQ特性(簡単にいえば周波数での損失)のコイルを作っているのである。更に機械強度、面実装なら半田付けの2百数十度の温度に耐えなくてはならず、コイルという見た目は構造が簡単な部品なのに結構奥がありそうだ。

 次に巻線だが、日特エンジニアーリングなど巻線メーカーからマシンを導入しているが、スミダスペシャルとして相当改造しているらしい。巻くことに関する技術は「均一」の一言に尽きるそうだ。また、コイルといっても完全自動で製作するものもあれば、人手に頼るものもあり、同社の製造ラインの特色はエンジニアでもうまく言葉に表わせないという。

 こうした多様なコイル(フェライト)に加え、独自の製造システムが顧客に評価されているのだが、同社の品種及び新製品投入は業界で一番多く、かつ短納期だという。
 結果トップ企業になった訳だが、今後はどうなっていくのであろうか?
 株価はデジタル化の波を先取りし、かなり上昇したが…。

 スミダは持ち株会社に移行し、社名も変更した。当然組織も変更されたが、実はその中に同社の将来を左右するような戦略が含まれているのだ。スミダは今までのコイルメーカーから、第2の成長路線へ大きく舵を変え、5年後・10年後全く違う姿になっている可能性がある。その戦略がどこに隠れているのか?

 同社は約10年前まで、特許意識が薄かったのが実状。しかし10年前に特許発明規定を設け、申請ベースで社員にインセンティブを渡してきたが、今年この規定を改訂している。インセンティブの金額をアップし、どんどん特許を取らせる方針に変更してきたのである。
 今までの累計特許申請ないし、公開数もNAということだが、前回約1ヶ月前の時点で平成5年以降の特許・実用新案公開が59件であったが、昨日見ると62件に増えていた。足下の申請数は、同社と特許庁以外はわからないが、かなりのハイペースになっている模様。

 では一体どんな特許を申請しているのであろうか? 製造技術に関する(巻線機械を含め)特許申請は基本的に行なわない。公開後工程を真似されたとしても、相手工場を査察に行くわけにも行かず、泣き寝入りになってしまい、それなら特許申請しない方がマシということだ。
 となると、今まで公開されているコイルの構造が中心になると思われるが…。
 同社には特許担当のエンジニアーは1名いるが、増員の方向である(特許室を開設する可能性もある)。そこまで力を入れるなら、なにかあるのでは…。

 実は、同社では昨年数名のエンジニアを中途で雇ったのである。この方々が同社の今後の成長にかなりポイントになるような気がする。素材のプロフェッショナルなのである。
 つまり、応用研究型企業の同社が基礎研究、すなわち川上の方に走り出したのである。この方々を雇ったということは新聞にも発表されていないが、実は重要な位置にあるようだ。

 面談した技術者曰く、「応用からベーシックな研究に力を入れるため、現在の研究施設である東京、仙台に続き、なとり市に施設を8月にオープンする。これらに加え、Mラボラトリで生産技術及び素材の研究を行ない、アプライドコンポーネットで新しいことをやっていく」という。

 コイル周辺のモジュール化、並びにノイズにはかなり注力するそうで、新素材による型破りの新製品でも登場してくるのかな?(マーケットではミクロの世界、カーボンなど色々発表されているが…)

 いずれにせよ同社では、特許を守りも当然だが、攻めに利用し、良い特許があればM&Aも行使する。足下の申請がわからないので、同社の対外的な発表もしくは1年半年の特許公開を待つしかないが、果たしてどういう姿になっていくのか。
 そして株価はどう推移していくのか楽しみだ。

※昨日の当欄で、「精工技研について明日も書く」としておりましたが、取材により他社の新鮮なネタが入ったため、同社については木曜日に書かせていただくことにします。ご了承下さい。

2000/06/26(月) 

スミダコーポレーション(東6817) ☆☆☆
 以前、大原部長が同社を取り上げましたので簡単にフォローさせて頂きます。

  1. 音響・映像機器用
     デジタル機器は、コイルの部品点数がアナログより少ないのが現状です。しかしながら、ノイズ除去のためいずれ増加していきましょう。多機能化の流れでDCコンバーターやパワーインダクタが引っ張っております。同部門はAV・携帯プレーヤー(MDなど)デジタルAV・DVD、そして足下ラジオ(ソニー向け)が好調に推移。
  2. 情報・通信機器
     この部門は携帯及びPCがほとんどです。携帯はノキア・モトローラ中心に、ノートPCは台湾・韓国向けに拡大。
  3. その他
     白モノ・アミューズメント・医療などが対象で、電源及びLCD向けです。
  4. 車載電子
     ABS(アンチロックブレーキ)、HIDランプ・ナビゲーション向け等で、全量海外向けです。ドイツ系ABSメーカーのマレーシア・メキシコ工場中心に、他米国に輸出。ドイツ系ABSメーカーは2社購買だが、同社に対し発注を増やしており、2年前の欧州統合で同社の役割は増であるという。米国のABSメーカーからも同様にオーダーが増えてきているという。
  5. 光電子
     金額ベースで95%が日立系向け。利益率は低く、昨年は償却を考慮すると赤字。今年は伸長の様子。
  6. 電磁気
     昨年9−12月の営業利益率は4.8%、経常段階では損益トントンか若干のプラス。現在資源投入でコスト増であるが、LAN・衛星放送・CATV向けに出荷しており、先行き期待できそう。
 同社は全量海外生産で、中国・台湾・マレーシア・ベトナム・メキシコの5カ国。この内中国がメインで、全体の7割を生産。中国は1直・昼間のみ座りで生産していたが、需要拡大で2直・24hに昨年秋に切り替え、第一工場を昨年末3千人から7千人に増強している(第二工場は建屋の関係で増やせず、時間を延長)。時間・人数を倍にしている訳で如何に供給が間に合わないかだ。

 同社の第1Qは、買収した子会社の寄与もあるが55%増の74億円の売上。4−6月の2Qは更に加速し、100億円以上の売上を予想し、上期の売上は174億円以上でなかろうか。
 3Qも引き続き拡大、4Qは若干落ちるとしても、会社側通期計画317億円は早晩修正されることになろう。但し、売上拡大に伴い、限界利益率で計算した場合の利益ほどは拡大しない可能性がある。これは資源投入増及び、中国工場増員による一時的な稼働率低下が予想されるため。しかしこの低下も、3Qからは是正されることになろう。

 発行したWBの行使が9月から始まり、株価上昇時の上値圧迫要因になろうが、それ以上に同社の業績には期待できる。

2000/06/06(火)

スミダコーポレーション(東6817) ☆☆☆
 株価: 5550円(6月5日)
 時価総額: 670億円
 企業価値: 720億円
 EBITDA: 48億円
 EV/EBITDA: 15倍
 PER 31x

 「投資技法:器機当たりの部品搭載個数を知る」

 スミダの株価水準はもはや安いとは言えません。ですが、この会社のIRはこの2年で格段によくなりました。その過程を紹介します。

 2年前、コイルの需要動向を調査していましたが、その際にスミダさんには大変お世話になりました。わたしの需要予測方法というのは、まず、各セットがどのような市場規模があるかを読んでから、各セットにどれだけの部品が使われるかを調べます。その上で、投資判断をしています。

 例えば、携帯電話というセットが将来どのぐらい売れるのかという予測とあわせて、コイルは携帯にどれだけ使われているのかということを調べるわけです。

・「器機一台当たりの部品の搭載個数」というのは投資の重要な決め手になります。

 2年前、スミダさんから、デジタルカメラ、ノートPC、デスクトップPC、AV器機、携帯電話などへのコイル搭載個数を資料としていただきました。
 例えば携帯なら、本体向けにEL駆動インダクタ(1個)、そして、携帯充電器向けにチョークコイル(1〜3個)、ラインフィルタ(1個)、スイッチングトランス(1個)とありました。合計3〜5個程度ですね。
 また、デジタルカメラは、ストロボ発振トランス、トリガーコイル。CCD駆動、LCD駆動、バックライト駆動、カメラ系電源、システム系電源(以上いずれも各1個)、DC/DCコンバーター(2〜3個)、平滑用チョーク(2〜3個)の合計11個程度です。

 こんな感じで、各器機の搭載個数をチェックしていきます。するとわかってきます。
傾向が…。

 スミダの特徴:
・スミダは電源系に強い。(東光は信号系に強い)
・ビデオカメラなど各機能ブロックに必要とされる電源の種類が違う(多機能 製品=コイル需要大)が、デジタルAVの電源系に強い・電源はスイッチング化していく。すなわち、ノイズ用フィルタ向けは増加する・減少傾向にあるAVのアナログ信号系コイルのスミダ売上は、5〜8%程度で影響は限られそうだ。

 フィルタは、LCフィルタといって、CD(デジタル音源)のノイズ除去に、よく使われます。これからは、高周波の対策用として伸びていく分野です。すみません、すこし難しいかもしれません。

・このように、セット動向と搭載個数の動向をチェックすれば、それで大体、買える銘柄か、買えない銘柄かは判断できます。

 ちょうどその頃、IR専門会社からスミダについて意見を求められたので、素直に述べたことは、以下の2点です。
1)アナリストは、携帯やPCの需要予測数字から業績を予想する
2)しかし、コイルがどのように、何に、何個ぐらい使われるのか、どの投資家もよく知らない。したがって、コイルの搭載個数を開示するべきではないか。

 そのときは、それが後でどういうことになるか、わかりませんでした。しかし、さすがですね。2年経ってわかりました。現在では、スミダの決算短信は日本で有数の出来です。
すこし、抜粋しましょう。

「〜デジタル器機はアナログ器機に比べ、現状ではコイルの部品点数が少ないものの、コイルの採用は着実に拡大するものと考えられます。本来デジタル化された信号はアナログ信号に比べ雑音がなく音声・映像等の情報がクリアであるという長所があります。この長所を利用して映像器機の高画質化を実現する訳ですが、映像情報をデジタル化するためには、情報を圧縮し、高密度・高速度で伝送する必要がでてきます。情報が高密度・高速化されるとデジタル回路から不必要に発生する雑音成分は急増します。このため、ノイズ除去機能のあるチョークコイル、ノイズフィルタなどの活躍の場がでてきます。 また、多機能化が進んでいけば、電流・電圧変換用のパワーインダクタ、携帯用の製品が増えれば電池からの供給電圧を効率よく変換するDC/DCコンバータ・トランスなどの需要が拡大します。ビデオカメラに使用されるコイルの部品点数はデジタル化の進展で98年には6−7個に減少しましたが、現在は10−12個に増加しております。〜」

 みなさん、どうでしょうか。下手なアナリストの分析より、ずっと会社側の説明が正確です。これを読んだとき、これほどまで、急激にIRが改善した会社はないのではと感じました。事実を淡々と述べる短信の文書は、芸術的でさえあります。

 しかし、まだ、不完全です。私なら、こう書きます。
「デジタル映像といえど、アナログ情報をデジタル化して記録し、再生時にまたアナログ化する、というプロセスとなります。一旦デジタル化した信号をミックスしてアナログ化するとき、その位相を合わせるのは大変なことです。その際、構造上単純なLCフィルタが大変役に立ちます」。
うっ。そんなに変わらないですね…。わかりやすくもないか…IRは難しい!

 スミダは、また、経営者の資質も十分です。社長は、コイルというものがよくわかっている。そして、自らを犠牲にしてでも、顧客のニーズに合わせないところがすばらしい。

 日本企業は、往々にして、顧客へのサービス過剰になります。スミダの顧客であるセットメーカーは、出来ればコイル単品ではなく、電源回路一体のモジュールとかで納めてほしいわけです。しかし、モジュール化は顧客のニーズとはいえ、危険がいっぱいです。なぜか。モジュール化したとたん、顧客が値切りはじめるからです。コイル単品で出しているほうが、利益率が高くなるからです。スミダの強みは、アセンブルではなく、コイル単品です。それをついつい顧客に頼まれるとやってしまうのです。アセンブルまで。そうなると儲かりません。それをしっかり避けている。偉いですよ。
 あと、スミダの中国の主力工場は1直で、座って作業しているそうです。1直の座り作業というのは、結構、余裕のある工場です。

 余談ですが、例のIR専門会社から先日電話がありました。
「大原さん、スミダの短信が出来上がったのですが、是非一読してください。感想をメールでお願いします。」
 わたしは、短信を読んで、返事を出しました。
「とってもよい。2年間でこれほどIRが改善した会社はありませんよ。これほどの短信はなかなかない。しかし、これほど情報開示がしっかりしていれば、もう説明会には行かなくてもよいのではないか」
と。そうです。わたしは、説明会には出席しませんでした。それはでも、ひとつの会社の成長を見届けた証でもあったのです。説明会に出ないで済むというのは、最高のIRです。


スミダのまとめ

  • IRとは、事実を淡々と正確に開示すること
  • モジュール化をしすぎては、セットメーカーの思うツボ
  • 器機一台当たりの搭載個数の増えていくものへの投資
  • 工場が1直、座り作業は、余裕いっぱい

あくまで投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり内容を保証したわけではありません。
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