京セラ(東6971) 2002/04/02更新
2002/04/02(火)

京セラ(東6971) ☆☆☆


 京セラは携帯端末メーカーとしてみればすばらしい会社だ。だが、2001年を通して電子部品事業が大不振に陥り、2001年3月期と比べ、2002年3月は営業利益が1/4に落ち込んだ。株価は2000年1月に2万円を割り込んだ後、下落に転じ、米国多発テロで市場心理が冷え込んだ2001年9月には7000円近辺まで下押しした。その後、携帯端末やパソコンなどの在庫水準が適正に戻るにつれ、株価は持ち直し、3月には9000円台を回復した。

 京セラの携帯事業の見通しは明るい。米国市場では、23%のトップシェアをCDMAというデジタル通信方式で獲得している。中国と日本国内においても着実な前進が期待できたし、利益率も2桁を維持できている。

 ところが、電子部品事業については、圧倒的な強さを誇るものが少ない。電子デバイスの70%を占める連結子会社のAVX社のビジネスは、タンタルコンデンサとセラミックコンデンサを軸にしたものだが、在庫調整に伴う数量の落ち込みと、在庫処理や供給過剰を背景にした価格低下により、AVX社は赤字転落を余儀なくされていた。

 わたしは、2003/3平均で20%+αの価格下落を想定している。
 数量の増加は10%+αにとどまるだろう。供給過剰の市場環境は一気に改善する見通しが立たない。

 20%の価格下落は重大だ。粗利益が40%の製品ならば、価格下落により、粗利益は半分になる。粗利益が30%の製品ならば、価格下落により、粗利益は1/3になる。価格下落は事業の将来性を大きく損ねる。

 価格下落がどの程度で収まるのか、それを予想するのはアナリストとしてはむなしい。むなしいが重要な作業だ。
 仮に20%の価格下落で利益が半減するとしよう。京セラの株価はそれをどこまで織り込んでいるかをまず考える。
 それは簡単な作業だ。利益を半分にして時価総額を比べる。それが高いと感じれば、織り込んでいないと結論を出す。

 現状で京セラの来期の一株当たりの利益は200円程度と考えられている。株価収益率(=PER)、つまり、株価を利益で割った数字は、45倍。
 これはそれほど割高な数字ではない。かといって、割安だとは到底いえない。会社側の懸命の固定費削減努力と携帯電話事業の伸びでようやく達成できる数字。それがEPS200円というレベルだ(コンセンサスはもう少し高いだろう。多分、240円程度だろうか)。

 今期だけを見ると、京セラを買う理由はまだない。
 短期的には買えないとき、長期的な展望はより重要だ。

 電子デバイスの競争力に疑問を持たざるを得ない。そのため、なかなか長期的な視点で株を購入できないでいる。
 仮に、競争力があれば、年間数十%という価格の下落は起きない。

 競争力とは差別化。差別化の成功は高い市場占有率を達成することで証明される。シェアが高いということが、価格の暴落を避ける。価格の安定は、長期保有につながる。価格が大きく低下すると、人員も資産も不良化してしまう。儲からなくなる。株価は理屈は、将来の利益の予想を永遠に足し合わせたものである。利益はゼロの会社の理論株価はゼロ円である。株価は1円にも満たなくなる。

 京セラは、いや、AVXを含む京セラグループはいかに、電子デバイスの差別化に成功できるか。
 差別化とは、人より安くてよいものをつくれる底力をいう。

●安くてよいという評価は、ライバルよりも安い固定費と変動費を達成したのち、従業員の高い士気によって、確実な評価を顧客から得ることで完結する。

 安い固定費は、少ない人員で安い給料で働くものを組織し、製造設備を安く上げるために、自前で設備を設計しなければならない。
 安い変動費は、安い材料を開発し、少ない製造工程を考えなければならない。

 要するに、これでもかとこれでもかと徹底的に考えなければ、差別化には成功できない。
 一人だけが考えてもだめで、会社に関わるすべての人員が、必死に努力しなければ、差別化は達成できない。

 案の定、どうやって価格下落を迎えるのかという問いかけに、京セラのIRの方は、こう答えるしかなかった。

「いい手があるなら、こちらが知りたい。教えてください」

 京セラはよい会社だ。5人程度の少人数のチームごとが団結して仕事にあたっている。組織運営は、アメーバー採算性と呼ばれる。最小単位のチームごとの採算を月次で把握できる。

 毎月、7つの事業部で1日をかけ、社長を交えた議論が行われる。こういう全員参加の企業は強い。しかし、京セラの問題点は、AVXという異国のパートナーの採算を他人任せのように日本の投資家は信じるしかないということに尽きる。AVXも大胆なリストラを実行している。しかし、タンタルコンデンサーは完全な成熟製品であり、セラミックコンデンサーは、技術的に他社よりも開発が遅れている。セラミックコンデンサの市場は、近年、台湾勢や韓国勢が躍進し、今日では、中国がダークホースになっている。その中で、日本メーカーはシェアトップの村田製作所といえども、予断を許さない展開が予想されている。その中で京セラグループは大丈夫なのか。

 そもそも、コンデンサーは構造的には単純なものである。誘電体を金属膜で挟む。基本的にはこれだけのことだ。
 性能を上げるには、大きく2つの方法がる。セラミックの誘電体を薄くすればするほど、基本性能である電荷を蓄える容量が増す。
 そして、誘電率を上げれば上げるほど、容量は増す。しかし、誘電率を上げると他の特性を犠牲にしてしまう。したがって、競争は一点に集約される。

いかに薄い膜をつくるか

 技術のトレンドが一旦決まってしまうと、あとは、長い急な坂の上にボールを置くのと同じで、そのボールが加速度を伴って転げ落ちるのを見るだけである。

 みんなが同じ方向を向いて、薄い膜に取りかかる。それは差別化といえるのか。ある時期、リードをし、ある時期、巻き返される。その繰り返しの中で、消耗戦が始まっていく。
 そして、とてつもない薄い膜を安くつくることに成功する。容量は数倍になる。しかし、容量はあくまでも容量であって、それ以上のものになれない。数倍の容量をもつコンデンサとありきたりの数個のコンデンサ。それらは同じ容量であり、どちらも等価である。ありきたりの数個のコンデンサの合計金額以上の価格をつけることができない。

 仮に、ありきたりのコンデンサは、ありきたりであるがゆえに、誰でもつくれるようになれば、どういうことになるのか。
 ありきたりのコンデンサの価格はさらに下がり、付加価値をもつはずのごく薄のコンデンサの価格は道連れにされる。

 その価格下落の連鎖を断ち切ることができないならば、長期的な投資をすることができない。それがわかっているから、もどかしいのだ。(大原)

 

 

2000/03/30(木)

京セラ(東6971) ☆☆☆☆
 前回に続き、京セラのお話です。今日はVCXOをご紹介します。

 VCXOとは…

  • 携帯電話の送受信部に使われます。
  • チップインダクター(コイル)数個、チップコンデンサー5個程度、水晶発振部品1個、サーミスター2個、バリヤキャップダイオード1個、トランジスター2個などがVCXOの中に実装されています。
  • 水晶から発振されたクロック信号をPLL(フェイズ・ロックト・ループ、LSI信号と回路信号を同期させる仕組み)へ供給するものです。
  • 温度によって、水晶の発振スピードが変わってしまうので、多くのアナログ素子で、スピードを一定するよう調整するわけです。
  • 例えば、抵抗素子1つとっても、温度によって特性が変わります。回路全体の調整作業がノウハウとなります。
  • 京セラは世界最小の7×5ミリのVCXOを提供しています。
  • 価格は1個250円から300円。
  • 生産数量は、現状(2000年3月)で750万個。今年の9月までに1200万個、12月には1500万個。
  • ほとんどの携帯電話メーカーが採用。
  • 調整作業に使うのは、ヒューレッドパッカードの測定器など。レーザーで素子を削って抵抗値を上げたりして、所定の特性まで微調整します。
  • もちろん、水晶発振器をはじめ、アナログ素子自体の品質も重要ですが、設計工程、実装工程に、アナログの熟練エンジニアが必要です。
  • アナログのエンジニアは不足しています。育てようにも、数年かかります。
  • 増産計画から、2001年3月期のVCXO事業の増益額は、40億円程度と推定されます。
 セラミックコンデンサーと比べると、規模の面で収益へのインパクトは劣ります。しかし、このアナログ回路の調整のノウハウが、携帯電話端末の組み立てにも大いに活きています。
 携帯電話の組み立てというのは、組み立てながら、測定器でチェックする作業といっても過言ではありません。所定の周波数がちゃんと入るか、ノイズが出ないかなど、手間隙かけていたら採算に乗りません。調整・解析ソフトウエアやマニュアルがすでに開発されていて、チェックのポイントやツボを抑えておけば、検査・調整工程は数分の1になります。一番人数がかかるのが、検査・調整の工程です。工程が数分の1であれば、人員も数分の1、生産能力は数倍になります。どうして京セラが組み立てで採算を確保しているかを知ることが、京セラの強さの一端を理解することになるのです。

 今回は代表選手として京セラを取り上げました。しかし、日本のアナログ技術はダントツ世界一です。村田、TDK、ロームなど、私はすべてのアナログ優位企業に注目しています。
次回は、ロームです。(大原部長)

2000/03/29(水)

京セラ(東6971) ☆☆☆☆
 京セラのセラミックコンデンサー事業が再評価される可能性があります。
 まず、コンデンサーについて少し説明します。コンデンサーには電荷を蓄える役割があります。静電容量の単位としてはF(ファラド)を使用します。実用上の単位としてマイクロ・ファラド、ピコ・ファラドが用いられます(マイクロは百万分の1、10^(-6)=1/1000000で、ピコは十億分の1のことで、10^(-9)=1/1000000000です)。
 静電容量Cは、2枚の導体板とその間に挟まれた絶縁板の状態によって決まります。
C(静電容量)=導体板間の誘電率×A(導体板の面積)÷導体板間距離で表されます。
 つまり導体板間の距離とは、誘電体(セラミック)の厚さのことです。ですから、セラミック膜をできるだけ薄く作ることがコンデンンサーの性能(容量)を向上させるキーポイントです。たとえば、セラミック膜が80ミクロン(80×10^-6メートル、80メートルを百万で割った距離)のものと、8ミクロンのものでは、8ミクロンのものが、性能が10倍高いのです。
 どうやって薄く作るか。京セラの場合は、ウエットプロセスといって、ガラスの支持台の上にセラミック溶剤を塗布していきます。この厚みがたったの2.5ミクロンなのです。
村田が3ミクロンですから、量産クラスの膜厚では、現在、初めて京セラが村田を一歩リードしている状況です。

 京セラの最先端コンデンサーは、400層です。つまり、2.5ミクロンのセラミック膜が400層あり、それぞれ金属膜で挟まれているものです。10マイクロファラドの容量があります。
 京セラは高容量(高容量の定義は1マイクロファラド以上)のセラコンで20%のシェアです。しかし、さらに1年程度かけて、膜厚を1.5ミクロンにする予定です。さらに400層を800層以上にすること、それ以外の要素もあって、来年中には100マイクロファラドの製品を投入出来そうです。10マイクロファラドのコンデンサーは、1個20円もします。通常は、1円以下です。20円ですと、ほとんどが儲けです。10マイクロファラド以上の分野では、他社を圧倒する可能性があるのです。
 セラミックコンデンサーの容量が100マイクロファラド以上になってくると、タンタルコンデンサーとアルミ電解コンデンサーの市場(約4000億円)を侵食するようになります。

 さて、生産能力ですが、上記ウエットプロセスの場合、来期平均して高容量中心に月5億個の増産効果、利益貢献はウエットプロセスのセラコンだけで100−150億円の増益要因になると考えます。
 また、携帯端末向け部品は、送受信部の部品中心に、VCO、TCXOなども堅調に推移するでしょうし、携帯端末の組み立て事業も含めて、来期営業利益1200億円も十分可能な水準です。(大原部長)

あくまで投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり内容を保証したわけではありません。
投資に当たっては投資家自らの判断でお願いします。
億の近道 on the Web 質問・要望事項はこちらまでメールを。


戻る