日商岩井(東8063)
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リストラ&低バリュー相場も最終局面かもしれない。楽して儲かる相場は長続きしない。 リストラ関連の中で、最後に残された、一番危ない企業群、もっとも倒産に近い会社が物色されはじめた。
ハイテク景気の減速を完全に相場が織り込むまで、まだ、2ヶ月程度の猶予があろう。短期スパンで買い。株価は上がるだろう。目標株価は200円。
【評価されない会社】
フローの利益からみれば、これほど安い株はなかろう。純利益200億円台の実力がありながら時価総額は1200億円。PER6倍という水準である。
営業利益は700億円程度の実力がある。2年分の営業利益額にも満たないこの時価総額は何を意味しているのか。
【倒産リスク】
ネットの有利子負債は2兆2000億円程度。格付けがよくないために、短期金利の水準は3%以上。大変なスプレッドを支払っている。およそ1000億円が利払いに消えるという会社は、なかなかない。
しかし、現預金3500億、短期有価証券500億円、投資有価証券6000億円、貸し付けが長短合わせて5000億円程度あるため、受取り利息や配当も800億円程度あり、ネットの利払いバランスは200億円程度のマイナスに改善する。
驚くほど高い調達金利にも関わらず、その上をいくリスクをとり、運用や金融を営む姿は大胆といえば大胆だが、やはり異常な状態であろう。
市場が恐れているのは、その異常さであり、大きな失敗が引き金となって、減資などの緊急事態に陥ることである。その危険性が高いならば、PER6倍でも恐くて買えない。それでは、市場の評価は倒産リスクをどの程度織り込んでいるのか?50%程度ではないか?つまり、市場は、日商岩井が倒産する確率を2分の1程度と見ている。
通常ならば、総合商社といえども、PER12倍程度の評価はなされよう。PER12倍というのは、社会的存在意味があまりない、つまり将来性がない総合商社という業態の評価としては妥当な水準である。
その妥当水準からさらに半分の評価。これは倒産確率50%と同じ意味であろう。倒産する確率を半分として、時価総額ゼロとする。そして残りの半分の確率を商社として適正なPER12倍の時価総額2400億円とすれば、トータルの確率では、評価が1200億円となり、現状の市場の評価に合致する。
【紙切れ確率50%の意味と銀行のサポート】
ネットの有利子負債は7000億円程度。この負担は金利3%で約200億円の持ち出し。そして、運用と調達でマッチングできる部分が、1兆5000億円。この運用と調達の逆鞘が2%とすれば、300億円程度の負担。合わせて500億円の負担。不況時の営業利益の最低ラインが500億円とすれば、なんとかつぶれないだけの体はなしている。
まあ、無理をしないで国債で逆ざや運用すると経常利益は200億円程度に激減。ネットは100億円に激減。そのPER12倍という説もある。。。。
【異常事態を脱せよ】
市場は、ある程度の常識的な財務水準を要求しているのだろう。
自己資本が1000億円。借金残高が2兆2000億円。22倍の倍率だ。仮にこの倍率が5倍程度ならば、PERは10倍程度に上昇するだろう。正確にいうなら、DEレシオ(デット・エクイティ・レシオ)が5倍程度に改善できるという確信を市場が持ったとき、PERは10倍以上になる。株価は倍近くまではいく。
会社はどう思っているのか?
「すくなくともDEレシオは、3−5倍が望ましい」(山口専務)
「有利子負債残高は、今年も10%程度は削減したい」(安武社長)
「ITX上場を起爆剤にする。含みは2000億円近くになる公算」(安武)
「そうなれば、念願のエクイティファイナンスも視野だ」(山口)
少なくとも今後3年程度で、有利子負債残高1兆5000億円、自己資本3000億円、DEレシオ5倍を目標に社内計画を策定する用意はあるという。(両者へのインタビューからの感触)
だから、PER10倍以上という彼らの目論見は、多分、年内に現実のものになるかもしれない。わたしは、この会社が簡単につぶれるとは思わない。
銀行の立場からはつぶせないだろう。
つぶれたら、せっかくのITX上場が延期になる。毎年1000億円近くの返済のフローを失う。それだけではなく、ネットで貸し出している7000億円は戻ってこなくなる。
銀行団にとってそれは最悪のシナリオである。
銀行団8社のクレディットラインは5000億円。秋には追加の枠が設定されるよう交渉が始まるようだ。
【ソフトランディング】
人員を1/3にした兼松がハードランディングなら、日商岩井のリストラは、可能な限り自主再建を任せられたソフトランディング型のリストラである。
そうはいっても、この2年の進捗状況は評価されてもいい。それだけの内容がある。有利子負債3兆3761億円(99/3)が2兆2000億円(2001/3 連結ベースは推定)単体人員は同期間で4236人が2900人へ大幅な削減。販売管理費は毎年2000億円以上の削減を達成。連結対象は不採算会社を中心に200社削減、新規分野で100社純増を目指している。
実際は、グループ会社の中で、黒字会社の割合は、99/3の63%(618社)から2001/3は70%を超えた模様だ。(540社程度)
子会社の損益管理は、しっかりとした撤退ルールを適用している。たとえば、3年連続赤字なら撤退。(しかし、厳密にこのルールが適用されるのかは疑問だ。甘さはまだ残っていると思う)
ITXの上場は上期中に行いたいとしている。相場環境はよくないが、可能だという。
ITXとは日商岩井グループの中の成長分野だけを取り出したような会社だ。分野は5つ。新規事業の発掘、開発、立ち上げのサポート業務、そこから成功した企業を引き続きIPO支援する業務、効率的な物流、ライフサイエンス事業、流動性ある証券を中心に投資するファンドビジネス。帝人が30%保有。帝人、ニチメン、船井電機などが戦略的パートナーである。
昨年4月に帝人が出資したときは、1株100万円、そのときの時価総額相当額が2000億円。また、昨年9月にニチメンが出資したときは、1株187万円。4000億円の時価総額相当だ。日商岩井は51%を有する。JSAT、日商エレク、スカパなどの有力会社を有する。ちなみに、2001年3月の営業利益額130億円予想だが、もう少し上に行きそうだ。
営業利益130億で時価総額4000億は、かなり高い評価となっている。ニチメンがこの値段で出資したということは、何の意味もない。もしかしたら、彼らニチメンは、とんでもないバカかもしれないからだ。
わたしは、価値を控えめにみている。今期営業利益を仮に150億円とすると、その20倍(PERなら40倍相当)が3000億円。営業利益を仮に減益で100億円とすると、減益が嫌気され、その15倍の1500億円ということもありえる。あまり低すぎると日商岩井側がITX上場を延期する事態になろう。
この見方一つで株価の評価が一変する。
なにはともあれ、子会社の時価総額が親をぬいているのは間違いない。
仮にITXの価値をおよそ2000億円とする。日商岩井の持ち分が1000億円。これを原資に自己資本を充実させる。数回にわけてエクイティファイナンスも行なうだろう。毎年の基礎的な最終利益で200から300億円程度を達成する。そうなると自己資本3000億円は3−4年程度で達成できるかもしれない。継続的なリストラで負債も減っていくだろう。そうなってようやくDE倍率5倍になろう。そうなると格付けも上がり、ファンディングコストもさがり、通常のバリエーションに収斂されるだろう。
新入社員はこれからも毎年50人程度だそうだ。しかし、3割は理工系の学生となっている。
ストックオプションを全員に配った。しかし、2年後350円となれなければ、紙屑となる厳しい設定だ。 ボーナスは20%カットされた。従業員も管理職も成果給となった。社内ベンチャー支援など、社員のやる気を引き出す工夫がなされている。
【海外投資家を訪問するための決死のツアー隊 まだ早いとの声を押し切って社長がいく。そのための中期計画を策定中】
まだ、成果を誇るの早すぎる。しかし、いてもたってもいられない経営陣は、低迷する株価をテコ入れしたがっている。
海外投資家へのプレゼンを準備中だ。話を聞いてみると、袋叩きにあうことはないだろう。
普通の会社になる準備は整った。普通の会社とは、PER10倍の将来性の低い会社のことである。それでも株価は倍近くになる。それから先は経営のリーダシップにかかっている。まだ、投資家としては、利益の質を問うことはできない。危篤状態から一般病棟へ移ったという状況だ。ようやく退院できる環境になった。まだ甘えの構造は残っている。
業況が厳しい今期も波乱含みだ。一歩間違えば、また、病院へ逆戻りだ。
このような最低の評価を覆そうと経営陣は6月に海外投資家を訪問し、普通の会社をアピールする予定だ。努力はした。これからもするという。だから、株は上がるだろう。
「IRツアーに持っていく中計内容は今やっているが、相当なアグレッシブなものになる可能性もある」(山口専務)
帰りのタクシーで、運転手がいった。
「この会社はクソですよ。タクシーチケットまで値切ってきた。いままでチケットまで値切った会社はこの世で2つしかない。JALとここ。5%の値引きで、その分そのまま運転手負担。おかげて、1万円の客を乗せても取り分は通常5000円なのに、日商岩井とJALだけは4500円。10%も減収になる。前はねえ、飲んで自宅までチケットで鎌倉とか遠くの自宅まで帰るって人、結構いたねえ。日商岩井の偉い人たちもそうだったねえ。いまでは、ハイヤーも雇ってくれないよ。偉いひともクーポンでタクシーに載っているよ」。
不便なお台場の本社へ彼らが新本社を移して、1ヶ月が経っていた。
商社マンのプライドを捨てた戦いはまだ終わりそうにない。
短期的に人気化する可能性がある。デイトレーディングには手ごろだろう。
本格的な離陸と判断するのは早計だ。(大原)
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